ファーストパーティデータがSAP C/4HANAの差別化になるか
SAPが「SAP C/4HANA」としてマーケティング、コマースなどのクラウドをスイートにしてから1年、買収したQualtricsの感情データが加わり、さらにパワーアップしそうだ。差別化はファーストパーティデータの活用、データ管理クラウド「SAP Customer Data Cloud」を利用して匿名顧客のプロファイルを構築できるという。
SAP Customer Data Cloudを中心に、SAP Customer ExperienceでSAP Customer Data Cloud担当ゼネラルマネージャーを務めるBen Jackson(ベン・ジャクソン)氏、SAP Customer Experience事業本部 ソリューション エンジニアリング ディレクターを務める阿部匠氏に話を聞いた。
――SAP C/4HANAを1年前にローンチしました。これまでの成果をどう見ていますか? 現在の取り組みは?
Jackson氏 SAP C/4HANAはスイート全体で一貫した属性を持っており、全体のUIを標準化する作業を進めているところだ。C/4スイート全体のユーザー体験を一貫性のあるものにしていく。
5月には「SAP C/4HANA Foundation」を発表した。SAP C/4HANAの各クラウドの管理を単一の管理コンソールから行うことができるもので、共通のアイデンティティと役割の管理ができる。スイートの拡張としては、「SAP Cloud Platform Extension Factory」を活用してSAPアプリケーションを拡張できる。パートナーや顧客はこれを利用して新機能を開発でき、シームレスで一貫性のある形で拡張できる。
――SAPはMicrosoft、Adobe Systemsと「Open Data Initiative(ODI)」を発表しています。こちらの取り組みの進捗は?
Jackson氏 とくに大企業を中心に企業はさまざまな技術を利用している。これらの技術はビジネス上の価値を提供するだけでなく、データの収集も行っている。ODIは、あるベンダーの技術で集めたデータを別のベンダーの技術に移動させるのを容易にする。これにより、データの活用が進むことを狙う。
具体的な取り組みは明かせないが、2社と定期的に会っており、さまざまな取り組みを進めている。顧客とも話をしている。
コンセプトとしては、システム間でのデータ共有という点でSAP C/4HANA Foundationと同じになる。SAP C/4HANA FoundationではExtension Factoryがそれを強化する製品になる。
阿部氏 SAPはすべてを提供するアプローチをとることが多いので、Open Data Initiativeは典型的なSAPの動きと異なるところは面白いと思う。先に、Accentureなどビジネスコンサル系の企業が加わったことが発表されており、今後の発展に期待してほしい。
――SAPが買収したQualtricsとの統合でどのようなことが実現するのでしょうか?
Jackson氏 Qualtricsは体験データを得られるもので、この買収はデータの重要性を示すものとなる。
Gigyaは2017年にSAPに買収された後、「SAP Customer Data Cloud」としてSAP C/4HANAの1クラウドとなった。このSAP Customer Data Cloudは、マーケティングにおける“正しいデータ”の課題を解決する技術だ。マーケティングのためのツールはたくさんあるが、最大のメリットを得るためには正しいデータが必要になる。たとえばマーケティングオートメーションでパーソナライズされたコンテンツを配信するためには、組織内でデータがサイロ化されていてさまざまなチャネルからの顧客データを1箇所に統合できない場合は、最大のメリットは得られない。
Qualtricsは顧客体験ツールで正しいデータの収集と活用を実現するものとなる。Qualtricsを利用することで利用者や顧客からダイレクトなフィードバックが得られ、これをサービス、マーケティング、コマースなどのアプリケーションで活用できる。すでに部分的に統合が始まっている。
阿部氏 SAPはトランザクションデータにフォーカスしており、顧客を識別するという点では既知の顧客にフォーカスしている。マーケティングでは、匿名顧客にフォーカスして既知の顧客にする必要があり、Gigyaの技術はこの問題を解決できる。さらにQualtricsの技術により、企業がトランザクションデータを得る際の体験についてのデータが得られる。
Jackson氏 それはいいポイントだ。匿名から既知顧客にすることは重要で、できるだけ簡単に、顧客に自分を特定してもらう必要がある。カスタマージャーニーの初期に名前とメールアドレスなどわずかだがデータを収集する。SAP Customer Data Cloudを利用して、連続的に顧客のプロファイル構築を進めることができる。ある程度の関係を構築した後、トランザクションが発生したり、ウェブサイトに戻ってきたなどの適切なタイミングで、追加のデータを求める。その後、顧客体験に関連したデータを求める……こうやってプロファイルを構築する。そして、これをオペレーショナルデータにリンクできるという点が重要だ。これにより、顧客へのリッチなビューが可能になるからだ。
――ファーストパーティデータがSAP C/4HANAの差別化になるということ?
Jackson氏 SAP Customer Data Cloudは合意ベースで顧客のファーストパーティデータを収集できる。欧州の「EU一般データ保護規則(GDPR)」、米カリフォルニア州の「カリフォルニア州消費者個人情報保護法(CCPA)」などの法律があり、もっとも価値のあるデータは、顧客が合意ベースで提供したデータであるという認識が広がっている。顧客も、“マイアカウント”のように、セルフサービスで自分の情報について設定したり確認できるページを求めるようになった。
SAP C/4HANAの大きな優位点も、このデータを収集してマーケティングに活用できる点にある。大手マーケティングクラウドベンダーで、この機能を持つところはほとんどない。SAP C/4HANAでは、顧客の合意を得て規制を遵守した形で、コミュニケーションチャネルの好みなどを知ることができる。このような合意管理は、競合にはない機能になる。