スガケンさんに聞く、リアルとデジタルのモノの売りかたの違いとは
藤原 今回、「オムニチャネルの次の話をしよう」という対談コーナーを持つことになり、EC以外の世界の人たちともお話ししたいなと思いました。ECはもう、ECだけに閉じていないので。そういった対談の方向性を示すためにも、第1回のゲストにはスガケンさんに出ていただきたいなと思ってお声がけしました。
菅原 藤原さんとはイベントでよく会うようになって、すぐ意気投合したと思います。理由は、数少ないビジネスの話をする人だから。ECの人たちは「儲かった?」という話になりやすいんですが、その中でも藤原さんはダントツ、ビジネスの話をする人だったから、話していておもしろいと思ったんです。
藤原 スガケンさんも、哲学者みたいなことを言う人なんだけど、すごくビジネスの人なんですよね。
菅原 哲学みたいなことを言うつもりはないんですが、多くの人に伝わるように話そうとすると、抽象的になってしまうのかもしれません。
藤原 もしかしたら、ECzineを読んでいる人たちの中には、スガケンさんのことをよく知らない人もいるかもしれないので、自己紹介をお願いします。
菅原 最初は、SIerのエンジニアでした。ガラケーの課金ビジネスのシステムを作る会社に新卒で入社したところ、携帯キャリアさんから「システムだけでなく、課金サイトもやってみませんか?」という話がきて、システム会社がコンシューマー向けのビジネスができるわけないんですが、受けてしまって。今の時代はあまりよろしくない働きかたですが、自分の部署の仕事を定時で終わらせて、その後朝4時まで着メロサイトを作っていました。それが当たって子会社を作ることになったのですが、そこで「ユーザーは嘘をつかない」ということを学びました。おもしろいサイトにはお金を払ってくれるけれど、つまらないサイトはすぐ使われなくなるということですね。そのうちに、マーケティングがおもしろいと思うようになってマーケティング会社をやり、アドテクに携わり、広告を買う側のSupershipから、広告を売る側のSmartNewsを経験して、ひと段落したのでMoonshotという今の会社をつくりました。ザ・ECというよりは、ユーザーに選んでもらうには?ということを考える仕事をしてきました。
藤原 ありがとうございます。そのご経験からまず聞きたいのは、デジタルとリアルで、モノを売って届けるというのは違いがあるのでしょうか。コンテンツを売っていたなら、たとえば映画や本が商材ならどうですか?
菅原 今まさに、本屋をやろうとしています。デジタルのコンテンツをKindleで読む体験と、紙の本を読む体験を比較したときに、中身のテキストを読むという意味合いでは、何も変わらないじゃないですか。だから、リアルの本を売るというのは別の体験価値を作らくてはいけないと思い、その本屋を「参拝モデル」にしようと思ってるんです。まずは本屋の一角を借りて、僕が選んだ本を売るところから始めようと思っていますが、そこを神社みたいにしようと思っている。本を買うというのは、自分が成長するためですよね。だから、「成長しますように」とお願いごとができる場所をつくる。最初は著者の方に来てもらうのですが、その追体験として、願いごともするし、本も買う。そうやって本を買うと、本がお守りになるんじゃないかな。読むと叶うし、叶ったらまた別のお守りを買うでしょう。コンテンツをただコンテンツとしてだけ売ろうとすると、リアルは厳しくなっていくと思います。
藤原 リアルとデジタルを分断するのは、もう古いという考えかたもありますけど。
菅原 リアルとデジタルの垣根は考えなくてもいいんですが、リアルは人が移動した分に値する、モノ以外の価値は作ったほうがいいと思います。デジタルでオーダーできることが基準になった後でも、わざわざリアルで欲しいと思うようなカテゴリはあるはずなので。
藤原 どこで買うかという視点もありますよね。今日(発売2日後)、iPad Proを見に某家電量販店に行ったら、新型が並んでいて、体験できるにもかかわらず多くの人が素通りしていました。一方で、アップルストアに行くと、たくさんの人が並んでいる。それも、体験のためではなく買うためにです。
菅原 それも、ECで事前にオーダーしおいてアップルストアで受け取るパターンですよね。商品を受け取る場所は、リアルなほうがいい場合もありますよね。ワクワクするし、うれしいから。家に届いた段ボールを開けて、iPadを使い始めるのもいいのですが、アップルストアで受け取ったほうが気持ちいい。中身はiPadであることは変わらないし、箱が大きくて重いから持って帰るのが面倒じゃないですか。家に届いたほうが便利なのに、最後の気持ちよさが欲しくてアップルストアにわざわざ受け取りに行くわけです。
藤原 ECには「ラストワンマイル」を誰が届けるという課題があるんですが、ひとつの解決策として、お客様にお店に取りに来ていただくというのがあります。でも、iPad Proの場合は、お客様が自ら、取りに行きたくていっている。
菅原 そう、行きたくて行っているんですよね。あとは、「ヒト気のある場所にいたい欲」というのがあると思います。