多機能すぎるMA。カゴ落ち対策だけで5~6割はカバーできる
――おふたりはイー・エージェンシー社のカゴ落ち改善ツール『CART RECOVERY カートリカバリー』の開発、および普段からカゴ落ち対策の研究をされているとのことですが。
野口(イー・エージェンシー、以下E) 「カゴ落ち」というテーマをもっと盛り上げたいという思いを抱えていた頃、一緒に何かできないかと相談したのが西井さんでした。ECに関するさまざまなことを体系的に、着実に実行され続けている方だという認識があり、個人的にファンだったのが大きな理由です。今ではカゴ落ちにとどまらず、機会損失をいかに防ぐか、具体的にはクリエイティブやメッセージなどにも研究対象を広げています。
西井(シンクロ、以下T) 現在、オイシックスでCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)も兼任しており、MAも使っています。ECを改善するソリューションは数多く、MAもそのうちのひとつですが、実際にもっとも売上に寄与するのはカゴ落ち対策だと思っています。
たとえば、売れないECサイトを改善することになった場合、ついついトップや商品ページに目が行きがちですが、まずやるべきはカゴ落ち対策なのは間違いありません。
MAは多機能で、使いこなせれば問題ないのですが、習熟するのに時間が掛かり過ぎます。私のところにもMAを導入したけど、うまく使えていないのでコンサルしてほしいという依頼が多くあります。
その中で、カゴ落ちだけでも、単品通販ならMA全体がもたらす効果の5~6割はカバーできると思いますし、むしろそれだけでも最低限実施しておけばいいのでは、と以前から感じていました。
もちろん、ECの事業形態によって違いはあると思いますが、配信タイミングやクリエイティブによって、それぞれどんな特徴があるか非常に興味があり、今回ご依頼いただいた時に、一緒に研究できるのはありがたい、と思ってご依頼を引き受けさせていただきました。
――MAが多機能すぎるのが、むしろ弊害になっているのでしょうか?
西井(T) これはすべてのツールに共通することですが、「何をしたいか」を明確にすることが最重要です。ECなら、売上増加がそれに当たりますよね。それを実現するために導入すべきは、MAなのかを考えるということです。
豊富な商品数、カテゴリ、顧客数を持つ大きなECモールでは、おおむねMAを導入しているでしょうが、相応の労力も使っています。自社のサイトが、その労力を支払うに見合った規模なのかは、考える必要があるのではないでしょうか。「とりあえずMAを入れておこう、流行ってるし、何でもできるらしいから」では失敗しますよね。
野口(E) MAツールを「箱」にたとえるなら、「巨大な箱にいろいろなものを入れることができてしまう状態」が「悪」という感じでしょうか。MAが登場して、ツールベンダーが「便利ですよ」とクライアントに丸投げして、でも使い切れない、というのが今の状態。要件定義に何だかんだで1年くらいかかってしまい、ようやく実装した頃には新しいツールが出ている、という状況が続いているように思います。
メールと広告に特化。欲張りすぎないライトさが特徴
――では、『CART RECOVERY カートリカバリー』の特徴とは?
野口(E) メールと広告に特化しているところですね。機能を盛りだくさんにしすぎず、重要な点にフォーカスしているのが最大の特徴です。
カゴ落ちをリアル店舗でたとえると、商品を手に取ったのに置いて帰ってしまう状況。ここで店員さんが声をかけるのはすごく効果的なのですが、ウェブではできていなかった。
それをずっと不思議に思っていたのですが、よく考えると、簡単に実現できるソリューションがなかっただけではないかと。カゴ落ちに特化したものがあれば、多くの方にライトに使っていただけるのではないかと考えました。
――メールと広告に特化した理由とは?
野口(E) MAの登場でさまざまなマーケティング手法が試されましたが、何だかんだでメールが一番効果的なんですよね。そのため、まずはメールをメインにしたかったのがひとつ。一方で、非会員の方でもカゴ落ちは発生します。メールが送れない人にリーチするなら広告だろうと。これで、ほとんどのユーザーにカゴ落ち訴求ができますから。
カゴ落ちした人に表示する広告は、商品画像と「お買い忘れはありませんか?」というメッセージになるのですが、これって今まではなかったものですよね。現行のリターゲティング広告では、どういった文脈で商品に辿り着いたかまでは汲みとっていません。何となく見ただけかもしれないし、間違えてクリックしたのかもしれない。
その点、カートやお気に入りに追加するのは、明確な意思と行為が伴っています。そういったユーザーの行動・文脈を引き継いだ広告は、従来より一歩進んでいると言えるのではないでしょうか。
――具体的な効果としてはいかがでしょうか。
野口(E) こちらは、カゴ落ちメールとカゴ落ちリマケ広告を実施しているクライアントの例です。特筆すべきは、開封率43%、クリック率10%、それにクリックした人の半数が購入に至っているという点で、これは驚異的な数値だと思います。月間で140万円以上の売上増加となり、当然お客様にもご満足いただいています。
西井(T) ここはシンクロでコンサルしている企業様ですね。なお、『CART RECOVERYカートリカバリー』では、カート放棄率が損失金額でも出てくるんですよね。これを見ると、カゴ落ちを放置しておくのはもったいないと、どんな企業様でも感じると思います。
掘れば掘るほど、底が深いカゴ落ち対策。
やがてスタンダードになる日が来る
――『CART RECOVERY カートリカバリー』は無事リリースされたわけですが、今後もカゴ落ちの研究は続けていくのですか?
野口(E) はい。現在、最短15分でカゴ落ちメールを配信できるのですが、顧客にとってどんなタイミングが最適なのか、クリエイティブやメッセージは何を訴求すればいいのか、とかいった研究は続けていきたいですね。業種によっても差があるでしょうし。
西井(T) 以前、中古車業界の方にお話をうかがったのですが、彼らはリマインドメールを離脱した瞬間に送るらしいんです。なぜなら、同じ商品がふたつないから。それって業種に特化していますよね。そういったことを考え出すと、たとえばファッションなら、ボーナス日や給料日に送るのが効果的といった、業種ごとの法則が見つかるのかもしれません。
――オイシックスのように、カゴ落ち対策がすでにできている企業は、次は何をするべきですか?
西井(T) 個人的な考えとしては、お気に入りに追加した商品のリマインドや、値下げした商品、欠品していた商品の再入荷通知などですかね。媒体としてはやはりメールからになると思いますが、LINEなど、それ以外の出し先が増えてくれば面白いと思います。
野口(E) 西井さんと同意見ですね。まだまだ世の中には、カゴ落ち対策を始められていないECも多くありますので、当社としては「すべてのECサイトにカゴ落ち対策」を実施いただくために、まずは努めていきたいと思います。
一方で、カゴ落ち以外にも「もったいない」の発生地点はまだまだありますので、大きなもったいないから順番に解消をしていきたいと思います(西井さんからの発案機能は基本的にはすべてつくっていくつもりです、笑)。