自分の手を動かさなければテクノロジーの恩恵は受けられない
――調査資料だけでなく、ECzine自体もECテクノロジーをメインテーマに扱っています。新しいツールも出てきて進化しているのは事実なのですが、どのようにご覧になっていますか?
藤井(アミファ) 僕らもテクノロジーの恩恵は、すごく受けていますよ。同じ売上でも、以前はECに携わっている社員が5、6人いたんですが、今は1.5人で済んでいる。1人あたりの営業利益率が高くなって、販売管理費が下がっているので、それはテクノロジーの進化のおかげです。ありがとうございますという感じかな。
でも、調査資料の223ページにあるけれど、ECテクノロジーで解決したいことが何かという質問に対して、一番多い回答が「新規獲得」、次が「CRM」って、10年前と変わらないんですよね。しかもこれは人間の「欲」だから、テクノロジーの進化では解決できないんです。
川原(UGO) テクノロジーの恩恵を本当に受けられるかどうかは、藤井さんのように「以前はECに携わっている社員が5、6人いたのが、今は1.5人で済んでいる」と言えるかどうかだと思います。藤井さんも今は効率化しているけれど、その前に寝ずにメールを打っている時期を経験しているから、ありがたいと思える。それが、最初からテクノロジーを入れてしまって、1.5人で済むのが当たり前の状態で始めてしまうと、ありがたみが実感できないんじゃないかと思います。
それでも、作業がラクになりますよと言っているうちは、テクノロジーも便利でいいなと思ってたんですが、最近のツールの謳い文句は、「考えなくてもよくなりますよ」「頭使わなくても商売できますよ」という意味合いに聞こえてくるんです。作業が効率化されることで時間ができて、そこでさらに頭を使えるようになればいいんですが、そこを怠けるためのツールだと聞こえてくる。それだと、一生懸命になるポイントがズレていると思います。
藤井(アミファ) AIの自動返信、僕はすごく嫌なんですけどね。自動返信で作業が効率化されるテクノロジーの使いかたって、結局のところ、自分の都合じゃないですか。お客様を見なきゃダメですよね。その点、Amazonはテクノロジーがすごいと言っても、やっぱりお客様を見ている気がします。面倒だからワンクリックで買いたいとお客様が言えば、テクノロジーでそうする。だから、だからどんどん引き離されてるんじゃないかな。お客様を見ないで、テクノロジーだマーケティングだの言葉の上っ面だけ見て、わかった気になっている人が多いと感じます。
川原(UGO) 以前は、楽天市場でECをやっている人たちの中に、『ECは究極の対面販売だ』と言っている人たちがいて、ネットで商売をしている人たちが、そちらの方向に本当に向かっていったらステキだなと思ってたんです。でも実際は、自分とお客様の間にいろんな仕組みやテクノロジーを入れて、間に挟んだものに任せて、自分ではお客様を見ないようになっている。どんどん対面販売から離れていっているように感じるんですよね。
皆さん、テクノロジーの進化に必死で追いつこうとしているけれど、どんなテクノロジーがあるかを最低限知っていれば、後は商売人としてどう振る舞うのかというだけの話ですから。どんなふうに手に入れて、どんなふうに使おうといったことばかり追いかけて、本来の商売人であることがおろそかになっている。その結果、どんなテクノロジーを手に入れても商売がうまくいかなくなっているんじゃないかな。
もしうちの会社で、部下がこの調査資料を持って「こんなに便利になるらしいから、このツールを入れたいです」と言ったら僕は却下します。まずはそのツールの代金を稼いでから言いなさいと。却下すると違う知恵が回って、そのツールを入れたら稼げるようになるらしい金額よりも儲かったりするんです。