AIが好みのモノをレコメンドするなら、好みじゃないものをオススメする
――お客様を見る、商売人として振る舞うという言葉が出ましたが、具体的にどんなことをされているのでしょうか。
藤井(アミファ) 当社の場合はメーカーだということもあり、主に商品やコンテンツを担当して、それ以外のことはすべて、サポート事業者さんにお任せしています。だから、会社としては売るノウハウを持っていません。いかにライバルと差別化できるか、ライバルではなくアミファのサイトに来る理由はなにか、社内ではそればかり考えています。逆に言うと、それさえしっかりしていれば、お客様は勝手に来てくださる。”販売を不要にする”ですよね。とくにメーカーはそこに尽きると思います。
どうやって差別化するかは、お客様の視点に立って商品をいくつかの評価軸で考えます。たとえば、お客様が手袋を買おうとした場合、色から選ぶ人もいれば、エレガントかどうか、支払い方法、ポイントがつくかどうかなど、考えられるパターンはいくつもあります。それをすべて考えて、優先順位をつけてやっていくだけです。客観的になることが重要で、それがテクニックかもしれません。このパターン出しを、売れなくて悩んでいる店長さんは2つ、3つくらいしかやらないんです。そこをどれだけ丁寧にできるかが勝負なのに。
川原(UGO) 松下幸之助の名言で、”2階に上がりたい情熱がハシゴを生み出す”という意味合いのものがありますが、誰かがかけたハシゴを使って上がってきても、そこには何もないと思います。ハシゴっていう便利なものがあるらしいと聞いて使ってみようという人と、どうしても必要でハシゴを作った人とは出発点が違う。
現存するツールやテクノロジーは、誰かの何かしたいという情熱をもとに作られていると考えるなら、それを後から使っても、最初に思いついた人にはかなわないんじゃないでしょうか。きっと、最初にやった人がおいしいところはすべて持っていっていて、2階にはもう、何もないと思います。
――調査資料に載っていないことをやるとおっしゃいましたが、今後はどのようなことに取り組みますか?
藤井(アミファ) 10年前は、”リアルの不満をネットで解決”が合言葉だったんです。今はすでに、リアルとネットが融合したという前提で話すと、今後はそれによって生まれる別の不満を解決する方向に世の中が向かい、テクノロジーも進化していくと思います。この調査資料によれば、AIの時代が来て、精度の高いレコメンドをして、パーソナライズできるようになるんでしょう。
そうなった時の不満は何か。たとえば、以前買った本を参考にAmazonが別の本をオススメしてきますけれど、テクノロジーでその精度がさらに上がるとします。それが進むと、関連商品との出会いではなくて、思いもしなかった商品に出会いたいという欲望が出てくると思います。本屋さんの陳列職人が流行ったりするじゃないですか。僕らはそういうECをやるだけです。
ECにこだわってやるということは、お客様にモノを紹介するということに尽きます。AIが”好みのものはこれですか?”と聞いてくる世の中になったら、好みじゃないモノをオススメする商売をやる。いたちごっこですけど、どれだけ早く、そちらを向けるかが勝負じゃないですか。
川原(UGO) 悩める店長さんたちから、”最近のECには再現性のあるノウハウがない”という言葉を聞くのですが、そもそも商売に再現性なんてものがないですよね。世の中の流れ、お客様の困りごとに寄り添っていくだけなので、何かのノウハウを手に入れるとすべて解決なんてことはないと思います。
テクノロジーによって作業が効率化されるからこそ、そういったことに思いを馳せる時間をたくさん作ることが、商売人に求められていると思います。デジタル化されているところの恩恵を、よりアナログなところ、人でないとできないところに向けていかなくてはと考えています。(了)
調査資料『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』
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[目次]
1.市場動向編
2.消費者動向編
3.事業者動向編
4.業界関係者ヒアリング編
5.ウェブアンケート調査結果編