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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

ECホットトピックス(AD)

老舗ネットショップ経営者が調査資料を読んだら!? AI時代に中小ECが活きる道を訊く

オムニチャネルなど、大企業のECへの取り組みが注目されがちな昨今。しかし、日本のECを盛り上げてきたのは、10年ほど前から楽天市場等のショッピングモールに出店し、奮闘してきた中小ネットショップであることは間違いない。その代表ショップのひとつ、アミファ・藤井俊行さんとUGO.LLC・川原悠伍さんが、調査資料『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』を購入。感想をうかがいつつ、ECのベテランは現状をどう見ているのか対談してもらった。

ECで儲けるのではなく、ECをやること事体が目的になっている

――おふたりとも、10年以上前からECにかかわってこられたベテランです。長年見てこられて、EC業界には何か変化がありましたか?

藤井(アミファ) いちばん大きいのは、人が変わったところかな。10年前は、正解がない中でやっていくのが当たり前だったのが、近頃は、正解があってその通りにやれば売れると思っている人たちが増えていると感じます。ECで成り上がりたい!というベンチャー社長は少なく、企業のサラリーマンでたまたまEC担当になったからやっているという人も多い。もちろん、そのなかからスーパーサラリーマン店長も出てくるわけですが。

僕がECにかかわることになった歴史を振り返ると、注文書が郵便で届く形で商売をしていた時代から、FAXやメールが登場し、メールに添付されたCSVで注文が来る時代に変わっていきました。そして今は、注文書が会社に届かなくなり、ネットショップに入ってきた注文に対し、倉庫が出荷してくれる形になっている。僕らの仕事は、在庫を埋めるだけと言っていい。

僕はそれを、注文書のもらいかたの変化としか捉えていません。お客様がFAXに手書きで書くのが面倒だから、ネットショップから購入するのに変わっただけ。ECってそれだけのことなんですが、なぜか皆さん、「インターネットにお店を出すこと」だと勘違いしていると思うんです。この話を理解してくれる人が少ないんですよね。

株式会社アミファ 専務取締役 藤井俊行さん
楽天市場やYahoo!ショッピングなどでプリザーブドフラワーをメインに販売している。

川原(UGO) 僕の場合は、自分がネットショップの店長なのではなく、予算と権限を与えている部下が、いつのまにか楽天市場でモノを売り始めていたという経緯でECとかかわってきました。インターネットは好きで、これで商売をするにはどうしたらいいかなと思って、当時から勉強していました。藤井さんと出会ったのも、”ネットで儲かっている人たちが集まる”という謳い文句に惹かれて行った、経営者や店長さんたちが集まる会だったよね。

10年前と今を比べて感じるのが、ECで儲けようとしているというよりは、ECをやること自体が目的になっているんじゃないかなということです。でも、今でもECでちゃんと儲かってる人たちは、ちゃんと商売しようとしています。

調査資料の49ページに、「普段よく利用する通販サイトのショップ名」のグラフが出ていますけれど、Amazonや楽天市場が上位なのは当然として、20位くらいになると「澤井珈琲」さんや「オーガランド」さんが出てくる。これらのお店は、きっと楽天市場に出店している店舗が印象に残っているはずです。でも、楽天市場よりもそのお店の名前が出てくるんですよね。

――調査資料について触れてくださってありがとうございます。正直なところ、購入してくださって驚いたんです。想定していたターゲットと違ったものですから。

藤井(アミファ) 調査資料に登場している大企業の皆さんのお話を読むと、ECは実店舗の通信手段で、核心は顧客の囲い込みだと捉えていらっしゃる。僕らみたいな小さい小売店は、楽天市場やそもそもSEOによる「新規の集客」という期待があるけれど、彼らは既にいるお客様とどう付き合っていくかを考えてECをやろうとしている。同じECでも、そもそものすみ分けが違うなと感じました。

川原(UGO) 僕らのように自分で事業を起こそうとする人間は、1章、2章に出てくるような探せば見つかるデータは自分でとっています。この調査資料は、インタビューをして裏付けをとっているところがいいところかなと思います。でも、制作に半年かけて作っているということなので、ここに載っていることは半年前に誰かがやっていること。同じことを半年後からやったら負けなわけです。ここに載っていないことをやらないと商売にならないと思います。

UGO.LLC 川原悠伍さん
楽天市場、Yahoo!ショッピング等で展開していた資格取得系eラーニングの事業を譲渡後、ECとは距離を置き、利益をデザインする経営コンサルタントに転身。

藤井(アミファ) 大企業の経営企画部さんが、これからEC事業をやろうとする際のエビデンスにはいいよね。多くの人がこれを読んで、ここに載っていることの真似をすると思う。そうすると、まだ儲かる道はあるなというのが僕らの発想なんです。

自分の手を動かさなければテクノロジーの恩恵は受けられない

――調査資料だけでなく、ECzine自体もECテクノロジーをメインテーマに扱っています。新しいツールも出てきて進化しているのは事実なのですが、どのようにご覧になっていますか?

藤井(アミファ) 僕らもテクノロジーの恩恵は、すごく受けていますよ。同じ売上でも、以前はECに携わっている社員が5、6人いたんですが、今は1.5人で済んでいる。1人あたりの営業利益率が高くなって、販売管理費が下がっているので、それはテクノロジーの進化のおかげです。ありがとうございますという感じかな。

でも、調査資料の223ページにあるけれど、ECテクノロジーで解決したいことが何かという質問に対して、一番多い回答が「新規獲得」、次が「CRM」って、10年前と変わらないんですよね。しかもこれは人間の「欲」だから、テクノロジーの進化では解決できないんです。

川原(UGO) テクノロジーの恩恵を本当に受けられるかどうかは、藤井さんのように「以前はECに携わっている社員が5、6人いたのが、今は1.5人で済んでいる」と言えるかどうかだと思います。藤井さんも今は効率化しているけれど、その前に寝ずにメールを打っている時期を経験しているから、ありがたいと思える。それが、最初からテクノロジーを入れてしまって、1.5人で済むのが当たり前の状態で始めてしまうと、ありがたみが実感できないんじゃないかと思います。

それでも、作業がラクになりますよと言っているうちは、テクノロジーも便利でいいなと思ってたんですが、最近のツールの謳い文句は、「考えなくてもよくなりますよ」「頭使わなくても商売できますよ」という意味合いに聞こえてくるんです。作業が効率化されることで時間ができて、そこでさらに頭を使えるようになればいいんですが、そこを怠けるためのツールだと聞こえてくる。それだと、一生懸命になるポイントがズレていると思います。

藤井(アミファ) AIの自動返信、僕はすごく嫌なんですけどね。自動返信で作業が効率化されるテクノロジーの使いかたって、結局のところ、自分の都合じゃないですか。お客様を見なきゃダメですよね。その点、Amazonはテクノロジーがすごいと言っても、やっぱりお客様を見ている気がします。面倒だからワンクリックで買いたいとお客様が言えば、テクノロジーでそうする。だから、だからどんどん引き離されてるんじゃないかな。お客様を見ないで、テクノロジーだマーケティングだの言葉の上っ面だけ見て、わかった気になっている人が多いと感じます。

川原(UGO) 以前は、楽天市場でECをやっている人たちの中に、『ECは究極の対面販売だ』と言っている人たちがいて、ネットで商売をしている人たちが、そちらの方向に本当に向かっていったらステキだなと思ってたんです。でも実際は、自分とお客様の間にいろんな仕組みやテクノロジーを入れて、間に挟んだものに任せて、自分ではお客様を見ないようになっている。どんどん対面販売から離れていっているように感じるんですよね。

皆さん、テクノロジーの進化に必死で追いつこうとしているけれど、どんなテクノロジーがあるかを最低限知っていれば、後は商売人としてどう振る舞うのかというだけの話ですから。どんなふうに手に入れて、どんなふうに使おうといったことばかり追いかけて、本来の商売人であることがおろそかになっている。その結果、どんなテクノロジーを手に入れても商売がうまくいかなくなっているんじゃないかな。

もしうちの会社で、部下がこの調査資料を持って「こんなに便利になるらしいから、このツールを入れたいです」と言ったら僕は却下します。まずはそのツールの代金を稼いでから言いなさいと。却下すると違う知恵が回って、そのツールを入れたら稼げるようになるらしい金額よりも儲かったりするんです。

AIが好みのモノをレコメンドするなら、好みじゃないものをオススメする

――お客様を見る、商売人として振る舞うという言葉が出ましたが、具体的にどんなことをされているのでしょうか。

藤井(アミファ) 当社の場合はメーカーだということもあり、主に商品やコンテンツを担当して、それ以外のことはすべて、サポート事業者さんにお任せしています。だから、会社としては売るノウハウを持っていません。いかにライバルと差別化できるか、ライバルではなくアミファのサイトに来る理由はなにか、社内ではそればかり考えています。逆に言うと、それさえしっかりしていれば、お客様は勝手に来てくださる。”販売を不要にする”ですよね。とくにメーカーはそこに尽きると思います。

どうやって差別化するかは、お客様の視点に立って商品をいくつかの評価軸で考えます。たとえば、お客様が手袋を買おうとした場合、色から選ぶ人もいれば、エレガントかどうか、支払い方法、ポイントがつくかどうかなど、考えられるパターンはいくつもあります。それをすべて考えて、優先順位をつけてやっていくだけです。客観的になることが重要で、それがテクニックかもしれません。このパターン出しを、売れなくて悩んでいる店長さんは2つ、3つくらいしかやらないんです。そこをどれだけ丁寧にできるかが勝負なのに。

川原(UGO) 松下幸之助の名言で、”2階に上がりたい情熱がハシゴを生み出す”という意味合いのものがありますが、誰かがかけたハシゴを使って上がってきても、そこには何もないと思います。ハシゴっていう便利なものがあるらしいと聞いて使ってみようという人と、どうしても必要でハシゴを作った人とは出発点が違う。

現存するツールやテクノロジーは、誰かの何かしたいという情熱をもとに作られていると考えるなら、それを後から使っても、最初に思いついた人にはかなわないんじゃないでしょうか。きっと、最初にやった人がおいしいところはすべて持っていっていて、2階にはもう、何もないと思います。

撮影協力:アミファ青山ショールーム

――調査資料に載っていないことをやるとおっしゃいましたが、今後はどのようなことに取り組みますか?

藤井(アミファ) 10年前は、”リアルの不満をネットで解決”が合言葉だったんです。今はすでに、リアルとネットが融合したという前提で話すと、今後はそれによって生まれる別の不満を解決する方向に世の中が向かい、テクノロジーも進化していくと思います。この調査資料によれば、AIの時代が来て、精度の高いレコメンドをして、パーソナライズできるようになるんでしょう。

そうなった時の不満は何か。たとえば、以前買った本を参考にAmazonが別の本をオススメしてきますけれど、テクノロジーでその精度がさらに上がるとします。それが進むと、関連商品との出会いではなくて、思いもしなかった商品に出会いたいという欲望が出てくると思います。本屋さんの陳列職人が流行ったりするじゃないですか。僕らはそういうECをやるだけです。

ECにこだわってやるということは、お客様にモノを紹介するということに尽きます。AIが”好みのものはこれですか?”と聞いてくる世の中になったら、好みじゃないモノをオススメする商売をやる。いたちごっこですけど、どれだけ早く、そちらを向けるかが勝負じゃないですか。

川原(UGO) 悩める店長さんたちから、”最近のECには再現性のあるノウハウがない”という言葉を聞くのですが、そもそも商売に再現性なんてものがないですよね。世の中の流れ、お客様の困りごとに寄り添っていくだけなので、何かのノウハウを手に入れるとすべて解決なんてことはないと思います。

テクノロジーによって作業が効率化されるからこそ、そういったことに思いを馳せる時間をたくさん作ることが、商売人に求められていると思います。デジタル化されているところの恩恵を、よりアナログなところ、人でないとできないところに向けていかなくてはと考えています。(了)

調査資料『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』

調査資料『EC市場とテクノロジー活用最新動向調査2015-2016』

マクロなデータと先進企業26社へのインタビュー、そして独自ドメインECサイトを運営する企業213社にアンケート調査した結果から、EC市場とテクノロジー活用の最新動向に迫ります。詳細・購入はこちら

[目次]
1.市場動向編
2.消費者動向編
3.事業者動向編
4.業界関係者ヒアリング編
5.ウェブアンケート調査結果編

 

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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