顧客との出会いを2倍に増やしたアルビオン MAISON SPECIALは有人対応の知見をMAで自動化
両社それぞれ異なるブランド思想を持ちながらも、顧客と信頼を築くために重視しているのが「双方向のコミュニケーション」だ。前述のようなオンライン接客のAI化は、アルビオンだけでなくPLAY PRODUCT STUDIOでも進められている。
なお、アルビオンは既にAI導入前後の成果を可視化している。榊原氏は「コミュニケーションの総量を約2倍に増やせただけでなく、顧客の意外な潜在ニーズを発見した」と説明した。

「AIを導入した当初は、24時間365日のCS対応を叶えたく、主に夜間の対応をAIに任せる想定でした。しかし、『スタッフに聞いてみる』『AIに聞いてみる』のボタンをチャット画面に設置して運用を開始すると、時間帯を問わず後者を選ぶお客様が圧倒的に多かったのです。これは予想外でした」(アルビオン・榊原氏)
同社は絶えずAIの磨き込みを続け、今ではAIの正答率が約95%にまで上昇しているという。こうして削減できたスタッフの工数を、今までやりたいと考えていながらも着手できていなかったこと、人間にしかできない新しい取り組みの実現などに費やすことで「ブランド体験をより高めていきたい」と榊原氏は意気込んだ。
一方のPLAY PRODUCT STUDIOは、シーズンごとに商品が入れ替わりSKUも多いアパレルの特性から「接客を完全にAI移行する難しさを感じている」と語る福田氏。しかし、返品・交換、店舗情報の提供や決済方法の変更対応など、回答内容を統一しやすいカテゴリーからAI対応し、有人対応と切り分けることで効率化を図っているそうだ。
「お客様の感情の揺れや迷いといった意図を柔軟に汲んで、商品提案をするような“接客”は、まだまだ人間のほうが優勢です。MAISON SPECIALでは、こうした人間による対応やEC上の履歴から行動の背景をつかみ、MAのシナリオにも反映させようとしています。かご落ちメールのパーソナライズなど、画一的になりがちなポイントに手を加えることでOne to Oneのアプローチをより加速させていきたいです」(PLAY PRODUCT STUDIO・福田氏)
ブランドの個性を踏まえつつ、生成AIとの距離感を探る両社。しかし、既存の業務や体験をどうAIに委ねていけば良いか、道筋が見えていないEC事業者や担当者もまだまだ多いはずだ。先手を打ち、既に手応えを得ている二人から最後に「AI活用でブランド体験はどう変化するか?」という問いに答えてもらった。
「私は、AIを使うことでEC事業者や担当者側のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)を減らせると考えています。
たとえば私が『AIに率先して質問するお客様は多くないだろう』と想定していたように、人間はどうしても自分のものさしでものを見たり決めつけたりしがちです。『AIに聞く』という選択肢を設けていなければ、おそらく多くのお客様との出会いの機会を失っていたでしょう。人間だけですべてを判断、行動しようとすると、こうした機会損失は増え続けるばかりです。
私は、AIに触れるたびに新たな気づきを得ています。単なる検索ツールや壁打ち相手としての使い方だけでなく、業務効率化や体験の向上にまで組み込めれば、お客様とブランドの距離感はより縮められるはずです。ぜひ一緒にAIを活用し、世の中をより良くしていきましょう」(アルビオン・榊原氏)
「AIは、ブランドの“中の人”が思いつかないような新しいアプローチを提案してくれます。優秀なディレクターやマーケターがチームに加わり、外の視点から提案してくれるようなイメージです。一定の客観性を持ちつつも、新規顧客の開拓や既存顧客に向けたアクションの手助けをしてくれる強力な味方が社内に加わると思えば、上手に活用しない手はないでしょう。
『AIが仕事を奪う』といった言説もありますが、私はAIの存在によって人間がブランド価値向上に向けた新たな挑戦をしやすくなると思っています。競争が激しい世界だからこそ、こうした取り組みを見逃していては淘汰されかねません。生き残るためにも、しっかりとAIの個性と向き合い、挑戦を続けていきたいです」(PLAY PRODUCT STUDIO・福田氏)