EC×生成AI活用の入口は大きく二つ? 2社の取り組みから見える道筋
「ANNA SUI」「PAUL&JOE」が展開するコスメラインの国内販売責任者を務める榊原氏と、「MAISON SPECIAL」「PRANK PROJECT」といったアパレルブランドのEC統括を行う福田氏。まずは、現在進行系で取り組んでいる生成AI活用の方向性について話を聞いた。
「アルビオンでは、『コミュニケーション活性化、量を増やすため』『接点を増やすため』の二つの観点から生成AI活用を進めています。より具体的に説明すると、前者はチャットに寄せられたお客様からの問い合わせ対応、後者は新規獲得のために配信する広告クリエイティブ制作といった具合です」(アルビオン・榊原氏)

「PLAY PRODUCT STUDIOでは、主にMAISON SPECIALで生成AI活用を進めています。目的は『ブランド価値の向上』と『顧客の課題解決』です。アルビオンさん同様、チャットやクリエイティブ制作に既に用いていますが、コーディネート写真などの領域でも生成AIを使っていけないか現在模索中です」(PLAY PRODUCT STUDIO・福田氏)
双方の使い方から、「コミュニケーション」と「クリエイティブ」という二つの主な方向性が見えてきた。こうした共通項がある一方で、積極活用する中で両社が重視したり慎重になったりするポイントが異なる様子もうかがえる。
「お客様から個人情報をお預かりする企業である以上、情報流出には特に気をつけなければなりません。そのため、機密情報は学習させない、AIツールで扱って良いデータを制限するなどの決まりごとは存在しますが、そのほかは比較的自由です。なので、私はいろいろとチャレンジをさせてもらっています」(アルビオン・榊原氏)
福田氏は、これを受けて「当社は『社内全体でAIを活用しよう』と動いているわけではなく、チームや個々の判断に委ねられている」と現状を説明。職種ごとに抱える業務課題やパフォーマンスの改善を図るため、そしてクリエイティビティを一つの売りにする“MAISON SPECIALらしさ”をより効果的に表現するため、どうAIを使えば良いか各々が日々模索しているそうだ。
ここで二人は意見交換を実施。福田氏は榊原氏の回答を踏まえ、AIの社内普及率について尋ねた。アルビオンは、ECzineでかつてオンライン接客のAI化について寄稿していたようにAIを使ったサービス向上を図っている。こうした企業であれば普及率も高いのではと予想されるが、返ってきた回答は意外なものであった。
「アルビオンは店舗も有しているため、『社内全体でのAIの普及率』というと現状はそこまで高くありません。セキュリティに対する懸念から、興味はあっても何をどう使えばいいのかわからない様子が見受けられるので、『このツールを使ってみて』と指定して取り入れてもらうところから始めています。ゆくゆくはそれぞれが自走できる状態を目指したいです」(アルビオン・榊原氏)
セキュリティ面など、一定の制約の中でAI推進をする榊原氏からは「社用アカウントで使用できるAIツールを定めたり、ガイドラインを制定したりはしているか」といった質問が福田氏に投げかけられた。
「決まりごとは特に設けず、既存ツール内の生成AI機能を積極的に活用したり、自身の業務に適したツールを新たに取り入れたりしています。
たとえば、商品開発に携わるデザイナーと広告を手がけるクリエイティブ職では、使うツールや求めるアウトプットが異なりますよね。それを踏まえず最初から決めごとばかりを増やすと足かせになってしまうと考えています。それぞれの職務に応じたツールを適切に使うほうが、普及率も早く上がるはずです」(PLAY PRODUCT STUDIO・福田氏)