小売のEC化は優先度が上がりづらい? 社内の協力を仰ぐ組織体制
EC売上が伸びるにつれて、一つの売り場として社内での存在感が強まっていく。EC事業主体で整備していた商品マスタの重要性を、実店舗側も気づき始めたという。
「これまで、実店舗側では商品マスタがあまり重視されていませんでした。商品情報を詳しく説明しなくても、お客様が実際に目で見て理解できるからです。しかし、誰がどのような商品を購入しているのかID-POSで分析するにも、商品マスタが必要ではないでしょうか。具体的な需要が見えなければ、たとえば都道府県によって売れる商品が違うにもかかわらず、全店舗で同じような陳列をしてしまうケースが起こります。EC経由の売上構成比が大きくなり、こうした状況に目を向ける社員が増えてきました」
取引先であるメーカーも、徐々に実店舗だけでなくネットスーパーやネットショップまで含めて販売先を検討するようになった。商品が頻繁に変わるメーカーでは、旧品が工場に大量に余ることが珍しくない。その際、ベイシアのECチャネルで販売してくれるという。戸枝氏は「EC経由でも売り切る力がついてきた証拠」と胸を張る。
ベイシアのように、社内を巻き込んでEC強化に成功している事例はまだまだ多いとはいえない。実店舗軸で成長してきた企業では、EC事業の優先度が下がる場合もある。戸枝氏は「当社でEC事業が受け入れられた理由は、担当の私が新卒入社から一貫して在籍する社員だからではないか」と語る。
「社内でEC事業のプレゼンスが上がらないという話は、よく耳にします。あえて専門人材を中途採用しようとするからかもしれません。私は、大学卒業後すぐにベイシアへ入社し、商品部などを経て今に至ります。これまでの経験値や社内のつながりによって、協力してもらえる雰囲気があると感じます。EC事業全体を見渡しても、半分は元々在籍していた社員です。小売がEC事業を育てるには、専門人材とのハイブリッド組織が良いと思っています」
企業に愛着をもっている社員ならではのアイデア・スキルも、EC事業の拡大には欠かせない。
“駄菓子のタグづけ”が新たなチャレンジのきっかけに
着実に認知を拡大しているベイシアのEC事業。それでも、まだ発展途上だ。次フェーズに進むために、新たな挑戦を始めている。その一つが、商品へのタグづけ。AI開発などが行えるGoogleの「Vertex AI」を活用し、様々なパターンを試している段階だ。
「特に効果が見えたのは、ある国民的な駄菓子です。意外にも、最初はEC上であまり売れていませんでした。たまたま社員がVertex AIの提案から『バーベキュー』というタグを商品に付与したところ、実際に『バーベキュー』で検索していたお客様から大きな反響が得られました」
バーベキューに関連する商品といわれると、多くの場合、肉やコンロが思い浮かぶはずだ。戸枝氏は「バーベキュー×駄菓子は、人間ではなかなか気づかない組み合わせ」と話す。
「たしかに、いわれてみれば友人と集まるバーベキューの場に、なじみの駄菓子があると嬉しいですよね。今は、担当者が趣味のような感覚で、各商品にフィットする単語を日々探してくれています」