願望をもたない“AI部下”をどう操るか 管理に必要なのは○○力
藤原(300Bridge) ちなみに、青木さんやクラシコムのAIとの向き合い方についてもお聞きしたいなと思うのですが、今はどういったフェーズでしょうか?
青木(クラシコム) まさにフォームを探求しているところで、僕を含む執行役員以上の役職者が「ChatGPT Pro」プランに入り、日々研究を進めています。自分で使ってみるとわかりますが、生成AIの登場前後でデータの扱い方は大きく変わりますね。以前はモデル設計をしっかりと行い、構造化しなければデータ活用ができませんでしたが、今はやりたいことが明確になっていてAIに指示を与えられれば、エンジニアリングができなくてもローデータに触れられます。インターネットやiPhoneが登場した頃のように、これまでの常識が大きくくつがえる感覚を覚えています。
藤原(300Bridge) 手を動かす力より、全体を捉えてオペレーティングする力のほうが大切になりつつあると僕自身も感じます。
青木(クラシコム) AIは極めて優秀ですが、最初はまったく自主性をもたない“部下”です。知識やアイデアを与えてくれたり、相談に乗ってくれたりもしますが、こちらが「何を知るべきなのか」「どういったことをしたいのか」といった願望を解像度高く、かつ言語化できていなければ、自主性のある対話もできません。AIを管理するには、想像力も必要です。
また、AIを単なる手段として終わらせてはいけないとも思っています。インターネットの中からECビジネスが生まれたように、AIの中からきっと新たな産業が生まれるはずです。
藤原(300Bridge) 最近、YouTubeでAI関連の動画をよく見ますが、10代~20代の若者の発想の豊かさに驚かされます。既に存在するAIソリューションを組み合わせて、新たなマネタイズの手段を考えていたりもして……日本の未来もまだ捨てたものではないなと思いました。
青木(クラシコム) ただ、既に存在するものを組み合わせているステップから一歩先に進まないと、イノベーションは起きませんよね。僕はAIに奥行きのある世界を与えられるよう、効率化だけでなく夢をもたせられるような定義付けも必要だと考えています。
僕は、テキストベースだった初期インターネットの世界を「サイバー空間」と呼び、立体的な概念を与えた人を発明家として尊敬します。恐らく当時の既存の概念だと、紙媒体の延長線上で「ウェブパンフレット」「ウェブブック」といった名称を用いてもおかしくなかったと思うのですが、空間・場所と捉えて「ウェブサイト」と名付けた。この言葉がなければ、インターネット上に店舗を構える「ECサイト」、コミュニケーションの場を設ける「SNS」といったソリューションも生まれず、今のような産業として育っていなかったのではと思うほどです。
藤原(300Bridge) 本当にそうかもしれません。「サイバー空間」「ウェブサイト」のような未来につながる言葉や定義が、AIの世界にも生まれると良いですね。
青木さんとお話すると話題が尽きませんが、この続きはまた日を改めて行いましょう。本日はありがとうございました。
対談を終えて(300Bridge 藤原氏より)
自由を大切にする“独立国”のような経営の息吹に触れ、とても刺激的な時間でした。広告費を未来への種まきと捉えたり、生成AIを「まだ欲のない新人」として育てたり━━変化を楽しみながら前へ進む姿が印象的です。
結局のところカギになるのは、理念を見つめ直し、まず試してみて、また磨き直すという軽やかな往復運動。身近な“フォーム”を一つ整えることから始めてみたいと思います。