マネージャーが病まない環境作りのヒントは円満な家庭にあり?
藤原(300Bridge) 実際にフォームを身につけてもらうには、どんな働きかけをしているのでしょうか。
青木(クラシコム) 入社した方の特性を見ながらアプローチは変えますが、まずはフォームを伝えて真似してもらい、解像度を上げられるようなフィードバックを続けます。すると、上司と部下の間で判断基準が同期し、最終的には経営層とのズレもなくなって「クラシコムの判断としてそれでいいね」というものになるんですよ。
以前、どこかである写真家の弟子育成方法を聞いたのですが、その方はまず写真を2枚出して「どちらが良い写真だと思うか?」と弟子に問いかけるそうです。これを100回ほど繰り返すと、弟子は師匠と同じものを選べるようになる。もちろん「なぜそうなのか」の説明もセットです。クラシコムでやっていることは、これと似たようなものかもしれません。
藤原(300Bridge) 判断基準そのものが変化する時期もありますよね?

青木(クラシコム) お客様との関係性や社会との関わり方がダイナミックに変化して、「これまでのやり方ではいけない」と思うことはもちろんあります。その際は新しいフォームを伝えられるよう、僕ら経営陣がまず言葉の定義や論理を積み上げていきます。これは、マネジメント層から一人ひとりの社員へ説明するための道具を用意するイメージです。
行動基準やバリューなど、説明や説得する際に同じ言葉で会話できなければ、認識や行動が統一されませんよね。すり合わせが必要な状況だとマネジメントの負荷も大きくなりますから、それは絶対に避けなければなりません。
僕は、日本のマネジメント層のストレスは「仕事が忙しい」「責任が重い」が本質ではなくて、「自分がやっていることに意味があるか掴めていないから」といった部分が大きいのではないかと考えています。あとは、マネージャー一人に委ねすぎですよね。クラシコムでは人事企画室もマネジメントに参加して、マネジメント層の相談に乗ったり、評価やフィードバックの粒度を揃えたりしているので「部門ごとにマネジメントの質が違う」といったことも起こりづらくなっています。仕事にせよ、マネジメントにせよ「一人じゃない」と思えることは大事だと思います。
藤原(300Bridge) 上司と部下が1対1の関係になりすぎないようにするのも、重要ですよね。中立を保つために良い意味で監視の目を入れ、独立国としての法律や平和を維持する方法を常に模索してきたからこそ、クラシコムは強いのだと理解できました。
青木(クラシコム) 経営やマネジメントについて専門的に学んだわけではなく、あくまで持論ですが、良い家庭を築くために家族みんなが気持ち良く過ごせる方法を考えるのと似たようなものかもしれないと思っています。親が過度にストレスを受けている状況では、子どもも落ち着いて日々を過ごすことが難しくなってしまいますよね。組織でいえば、マネジメント層が健やかでなければ組織全体の居心地が悪くなってしまうと思うのです。素人なりに、マネジメントエクスペリエンスは最重要項目と捉えています。