失敗から得た学びも 楽天市場は基本を押さえるところから
しかし、手探りで販路拡大を進める中ですべてが順調に進んだわけではなく、過去にはこんな失敗もあったという。
「2023年の母の日には想定以上の注文が入り、欠品が発生したことからお届けに最大2週間の遅延が発生してしまいました。これは、eギフトの特性を理解しきれていなかったことが原因だと考えています」
eギフトは、オンライン上でコミュニケーションの一環としてイベント当日に贈り合うケースが多く、需要予測が鍵を握る。「お客様を待たせてしまった苦い経験から在庫管理の重要性を学び、現在は2~3ヵ月ほど前から入念に在庫を用意している」と大場氏は振り返った。
楽天市場については、「各種イベントに合わせた施策展開が売上増に最も作用する」と大場氏は説明。「楽天スーパーSALE」や「お買い物マラソン」、毎月5と0のつく日に開催される楽天カード利用者を対象としたポイント4倍キャンペーンなどに合わせたアプローチを積極的に展開しているとのこと。
「基本的な施策をやりきることが最も重要ですが、当社はギフト需要が非常に高いため、母の日やお歳暮といった楽天市場内の人気イベントにも重きを置いています。ギフトは贈り手と受け取り手の双方に商品を知っていただく絶好の機会です。そのため、こうした時期の広告出稿を優先して年間の予算計画も立てています」
学びをチャンスの最大化に生かす 少人数運営は業務の棚卸しが鍵に
にしき食品がこのような積極的なチャネル拡張施策を実現できた背景には、明確な戦略が存在する。大場氏は「受注・出荷業務」「販売企画」「社内の他部署と連携」といった3つの角度から、取り組みの詳細を明かした。

「実働3名の組織で、受注・出荷業務まで手がけるのは非常に困難です。そのため、基本的な現場業務はパート・契約社員の方々で回せるように体制を整え、社員が販売に注力できる状況をつくり上げました。
また、ECチャネルの拡大に合わせて当社では早い段階からLINEギフト・楽天市場の出荷業務を外部委託しています。これにより、事業成長にともなう出荷量の増加や、突発的な注文増にも対応できるようになりました」
最短距離での成長や安定運用の実現に向けては、「その道のプロや周りの人々に助けられている」と続ける大場氏。自身もにしき食品に入社してからEC業務に携わることになった経緯を踏まえ、サイト制作・広告運用など専門知識を要する領域は、その道のプロとの連携を積極的に進め、自社のリソースをより有効活用できるように努めているそうだ。
「社内で業務の棚卸しを進める動きが生まれたのは、2023年の冬に一時的に社員2名体制で運用する状況に陥ったのがきっかけです。このままでは売上を生み出すための業務が回らなくなってしまうと思い、通販部で抱えていた業務の一部を他部署に移管しました。こうした対応ができたのは、相談しやすい上司や調整しやすい環境が整っていたからこそです。これによって、通販部も販路拡大や売上増により集中できるようになりました」
にしき食品のEC成長の特徴は、単にチャネルを増やすだけでなく、自社ECならではの体験創出にも積極的な点にある。ブランドそのもののファンに向けた自社EC限定企画や、ここでしか買えない「選べる定期便」の提供、メルマガやLINEを使ったこまめな情報提供など、既存顧客に向けた手厚いフォローも抜かりない。
「2021年6月にLINEギフトへ出店するまで、当社のオンライン販路は自社ECのみでした。そのため、一度購入してくださったお客様に向けた関係深化のアプローチに軸足を置いていたのですが、モールでは新たな出会いを生み続けなければ売上を拡大できません。
そこで、NISHIKIYA KITCHENを知らない方へのアプローチを進めたところ、自社ECにも横展開できる知見を得られました。現在は、それぞれで得た学びを双方に還元する良いサイクルができていると思います」
今後は、CRMによるリピート育成や新たなモール出店など「関係深化と売上の柱を増やす施策どちらも進めたい」と意気込む大場氏。実店舗・ポップアップからの相互送客については次のように語り、セッションを締めくくった。
「実店舗・ポップアップや催事出店も新たなお客様と出会う重要な場なので、にしき食品としては今後も積極的な展開を予定しています。現在は催事出店の際に自社ECで使える限定クーポンを配信するなどに留まっていますが、今後はより店舗とECチャネルを行き来できる仕組み構築にも挑戦したいです。
また、私個人の願望も含まれていますが、将来的には全国のNISHIKIYA KITCHENファンが集まれるような感謝祭も開催してみたいと考えています。リアルの体験も含めて、今後も一歩ずつ新しい取り組みを進めていく予定です」