メーカーだから店舗送客優先 そんな伊勢半の価値観が変わったきっかけは?
伊勢半グループの歴史は、江戸時代にまでさかのぼる。東京・日本橋小舟町で紅花から赤色の色素を抽出して作られる「紅」を製造・販売する紅屋・伊勢屋半右衛門(通称:伊勢半)として商売を始めた同社は、その製法や伝統を保ちつつ、時代に合わせた進化をし続けてきた。
「今も伊勢半の主要ブランドとなるKISSMEは昭和初期から存在し、戦後には総合化粧品メーカーとして口紅以外の商品も数々生み出してきました。2000年代以降には『ヒロインメイク』『ヘビーローテーション』など、アイメイクを中心としたシリーズも若い世代の支持を集め、ドラッグストアやバラエティストアといった実店舗を中心に、手に取りやすさと自分らしさを叶えるアイテムを提供しています」
そんな同社がオンラインのチャネル活用に本腰を入れた大きなきっかけは、「やはりコロナ禍だった」と小西氏は振り返る。
「2020年以前より一部の自社製品を取り扱うECサイトを立ち上げてはいましたが、私たちはあくまで『メーカー』であるため、直販よりも小売店への送客を優先すべきと考えていました。
そのため、当時は『自社ECで売上を立てること』よりも『お客様に商品を知ってもらうこと』に注力していたのですが、コロナ禍で主力販路の店舗が休業するような事態が起きました。そこで、伊勢半ブランドのすべての商品が購入できる『ISEHAN online store』の本格展開が始まったのです」
実は小西氏が伊勢半に入社したのは、コロナ禍が始まる1年ほど前の2019年3月。元々広告代理店でデジタル広告やSNS運用、ウェブサイト・ECサイトの成果向上に携わってきた同氏はこうした経験を生かし、現在では伊勢半ブランドのデジタル広告・SNS・EC運用など、オンライン領域全般の統括を行っている。
「自社ECを使った販路開拓は、コロナ禍という社会変化がもたらしたものですが、私が入社した当初から『デジタルに精通したZ世代以下の新たな購買スタイルに応えられるブランドやアプローチが必要ではないか』といった課題は挙げられていました。
それに対する一つのアプローチとして、2019年頃から開発を進めていたのが当社初のD2Cブランド『MN』です。コロナ禍によってローンチ時期を変更するといった事態もありましたが、奇しくも自社ECの本格化に並行する形で2021年7月より販売を開始しています」