視聴データは宝の山 ライブコマース=CRMの発想を
瀧澤氏は、日本および欧米でのライブコマースの現実解として「ライブコマース=CRM」の方程式を提示した。
「当社は、統合型動画ソリューションの『Firework』を提供する中で、日本市場に適したライブコマースの実践やサポートを行ってきました。コロナ禍が収束し、店舗での購入が戻ってきた今もライブコマースを続けている企業は増えていますし、実際に成果が出ている企業も多く存在します」
こうした成功例の一つとして、瀧澤氏は花王を紹介。同社は顧客の行動を初回購入から観測し、ブランドとの接触頻度を可視化している。
「Fireworkを使ってライブコマースを開始したところ、店舗・ECサイトでの購買から期間が空いた顧客が、ライブコマースの閲覧やコミュニケーションをきっかけに、再びブランドと頻繁に接触する傾向が見えてきました。これは、ライブコマースでブランドへの興味やロイヤリティーを高めるような深い接客体験が提供できたことの裏付けといえるでしょう。対面接客でなくても、顧客の興味・行動は変えられるのです」
さらに瀧澤氏は、ライブコマースの視聴データをCRM施策に取り込むことで生まれる、マーケティング施策の広がりにも言及した。
「ライブコマースは、新規顧客の『入り口』として活用し、コメントやカート追加のログから視聴者の傾向を把握するだけでなく、メールやアプリ、広告施策の『出口』としても活用できます。こうした入り口と出口双方の顧客把握ができる視聴データは、まだあまり注目されていませんが、大変魅力のあるものだといえるでしょう」
ライブコマースで「とりあえず」は失敗する 長期的視点をもとう
ライブコマースをCRMの一環として捉え、実行に移す準備段階でも「中国との違いを認識し、比べないようにしなければ失敗してしまう」と強調する瀧澤氏。続けて、はまりがちな「落とし穴」を三つ紹介した。
- KGI・KPIを「一配信あたりの売上」に設定してしまう
- とりあえず、インスタライブから無料でやってみる
- とりあえず、フォロワーのいるインフルエンサーをアサインしてみる
1. の理由について、瀧澤氏は「1配信あたりの売上を伸ばそうとすると、その時の売上を伸ばすことばかりに腐心し、値引きコンテンツばかりになってしまう」と指摘。利益率が低くても、売上数(量)の大きさで成り立つ中国と異なる点は忘れてはならないと補足した。
2. については、Instagramのユーザーの多さには魅力がある一方で「他にも魅力的なコンテンツがあふれているため、『少し気になる』程度のブランドの配信にずっとは滞在してもらえない」と現実を突きつける瀧澤氏。ショッピング機能は存在するものの、ライブ配信画面上に購入導線を設置できない点からも「Instagramはあくまで『メディア』」と語った。
「3. で示した、フォロワーが多いインフルエンサーに集客を任せる思考も注意が必要です。本当にその商品を長く愛用しているファンであれば話は別ですが、その場かぎりのアンバサダーとして起用しても、商品の魅力を適切に伝えられません。配信をしてもらうたびに金銭が発生するようでは継続実施もできず、売上創出の方法としては非効率的です」