中国の模倣では成功しない ライブコマースで陥りがちな落とし穴とは
リアルタイム配信で商品の魅力を伝え、消費者からの質問などに答えながらコミュニケーションと購買を促すライブコマース。中国での大成功を背景に、世界から注目を集める販売手法となったが、日本では成功事例の数がまだ少なく、主要販売チャネルといえるほどの頭角を示しているものとは言いがたい状況なのが正直なところだ。
瀧澤氏は、こうした日本のライブコマースの現状について「そもそも中国とそれ以外の国のEC市場を取り巻く環境はまったく異なるため、比較することが根本の落とし穴」だと力説。その上で、四つの要素を基にした数式から、中国でライブコマースが成功した要素を次のように説明した。
「中国では、淘宝(タオバオ)、TikTok(抖音:ドウイン)、快手(クアイショウ)といった巨大ECモールが国内EC売上の大半を占めています。そもそもeコマースを使った購入手段が限られているため、出店した先にトラフィックが集まりやすいのは大きな特徴です。
また、『KOL(Key Opinion Leader)』と呼ばれるインフルエンサーの信用度が高い点も、中国と日本の大きな差といえます。中国では、ブランドよりもKOLの発信内容が信頼されており、彼らに紹介してもらえるかどうかが売上を大きく左右します」
このほかにも、中国がライブコマースで成功を収めた要素として、瀧澤氏は「限定商品」と「ディスカウント」を挙げた。いずれも、配信視聴者を対象とした「今だけ」という特別感の演出により、消費者を引きつけているという。
「こうした仕組みをそのまま日本で取り入れても、利益率が非常に低い販売チャネルにならざるを得えません。売上を生み出すチャネルにするには、別の視点が必要です」
視聴データは宝の山 ライブコマース=CRMの発想を
瀧澤氏は、日本および欧米でのライブコマースの現実解として「ライブコマース=CRM」の方程式を提示した。
「当社は、統合型動画ソリューションの『Firework』を提供する中で、日本市場に適したライブコマースの実践やサポートを行ってきました。コロナ禍が収束し、店舗での購入が戻ってきた今もライブコマースを続けている企業は増えていますし、実際に成果が出ている企業も多く存在します」
こうした成功例の一つとして、瀧澤氏は花王を紹介。同社は顧客の行動を初回購入から観測し、ブランドとの接触頻度を可視化している。
「Fireworkを使ってライブコマースを開始したところ、店舗・ECサイトでの購買から期間が空いた顧客が、ライブコマースの閲覧やコミュニケーションをきっかけに、再びブランドと頻繁に接触する傾向が見えてきました。これは、ライブコマースでブランドへの興味やロイヤリティーを高めるような深い接客体験が提供できたことの裏付けといえるでしょう。対面接客でなくても、顧客の興味・行動は変えられるのです」
さらに瀧澤氏は、ライブコマースの視聴データをCRM施策に取り込むことで生まれる、マーケティング施策の広がりにも言及した。
「ライブコマースは、新規顧客の『入り口』として活用し、コメントやカート追加のログから視聴者の傾向を把握するだけでなく、メールやアプリ、広告施策の『出口』としても活用できます。こうした入り口と出口双方の顧客把握ができる視聴データは、まだあまり注目されていませんが、大変魅力のあるものだといえるでしょう」
ライブコマースで「とりあえず」は失敗する 長期的視点をもとう
ライブコマースをCRMの一環として捉え、実行に移す準備段階でも「中国との違いを認識し、比べないようにしなければ失敗してしまう」と強調する瀧澤氏。続けて、はまりがちな「落とし穴」を三つ紹介した。
- KGI・KPIを「一配信あたりの売上」に設定してしまう
- とりあえず、インスタライブから無料でやってみる
- とりあえず、フォロワーのいるインフルエンサーをアサインしてみる
1. の理由について、瀧澤氏は「1配信あたりの売上を伸ばそうとすると、その時の売上を伸ばすことばかりに腐心し、値引きコンテンツばかりになってしまう」と指摘。利益率が低くても、売上数(量)の大きさで成り立つ中国と異なる点は忘れてはならないと補足した。
2. については、Instagramのユーザーの多さには魅力がある一方で「他にも魅力的なコンテンツがあふれているため、『少し気になる』程度のブランドの配信にずっとは滞在してもらえない」と現実を突きつける瀧澤氏。ショッピング機能は存在するものの、ライブ配信画面上に購入導線を設置できない点からも「Instagramはあくまで『メディア』」と語った。
「3. で示した、フォロワーが多いインフルエンサーに集客を任せる思考も注意が必要です。本当にその商品を長く愛用しているファンであれば話は別ですが、その場かぎりのアンバサダーとして起用しても、商品の魅力を適切に伝えられません。配信をしてもらうたびに金銭が発生するようでは継続実施もできず、売上創出の方法としては非効率的です」
キーワードは「LTV」「ターゲット」「集客チャネル」
では、こうした落とし穴を回避するにはどんな方法があるのだろうか。瀧澤氏は、次の三つのポイントを挙げた。
- ライブコマースの評価は、LTVの変化量
- 販促の基本、誰に何を伝えたいのかを明確に
- 集客チャネルはLINE・アプリ通知・メルマガ
「ライブコマースは、深い接客体験を提供して、平均購入単価やリピート購入者数、購入率、リピーター数がどれだけ増えるかに着目すべきです。この変化に目をつけられるかが成果を大きく左右します。
LTVをゴールに置いて配信するコンテンツは、おのずと顧客の悩みに耳を傾け、解決を目指すヘルシーなコンテンツになっていきます。すると、結果的に一配信あたりの売上も向上するでしょう。Fireworkでは、これまで多くのブランドを支援してきましたが、一配信あたりの売上目標を掲げるブランドほど、短期でコンバージョンにつなげるための施策しかできず、アイデアも煮詰まってしまいがちです。発想の転換が必要だといえます」
瀧澤氏が二つ目に挙げたのは「販促の基本として、誰に何を伝えたいのかを明確にすること」だ。ポイントは「1万人に見てほしい」などといった数字ではなく、「30代女性の乾燥肌に悩む方の心に残るライブ配信にする」といったように、コンテンツの対象者と配信から得られるものを明確にすること。理由について、瀧澤氏は次のように補足した。
「ロイヤル顧客の悩みや希望は、日頃の顧客コミュニケーションから見えているため、改善提案にも着手しやすいはずです。やろうと思えば彼らから直接声を聞く術もあるでしょう。ライブコマース時に質問を募集するなど、声を寄せやすい環境作りも並行して行いつつ、顧客が望むコンテンツを提供して日頃から熱量を高めていくのもお勧めです」
三つ目は、集客方法に言及したものだ。瀧澤氏はLINE・アプリ通知・メルマガの三つを挙げた。いずれも、セグメント分けと配信・告知の頻度を高めに設定しやすいため、効果的だという。
アーバンリサーチ、SOU・SOU ライブコマース成功例を紹介
続けて瀧澤氏は、こうしたポイントを踏まえてライブコマースを実践し、成功を収める事例を紹介した。
複数のアパレルブランドを展開するアーバンリサーチでは、Fireworkの利用を開始して3ヵ月でCVRが202%、平均受注額が118%向上。同社が成功した理由は「一配信で一つの商品を紹介するのではなく、お悩み相談を受けたり『本気コーデ』といった切り口で複数商品を紹介したりした点にある」と瀧澤氏は説明。
「eコマース上でもマネキン買いをしてもらえるようになったことで、購入率以外の数字にもプラスの効果がもたらされました」
二つ目の事例は、アパレルやバッグなどを展開する京都のブランド「SOU・SOU」だ。同ブランドは、ECサイトの売上の4割が海外からの購入である点を踏まえ、中国語でのライブ配信を実施。ライブコマースの開催情報や配信内でのクーポン発行情報などが、ファンによるFacebookグループで即座に拡散されるほど、中国語圏に強いコミュニティーが築かれている。
「ライブコマース視聴ユーザーのCVRは非視聴者と比べて6倍と、非常に高い成果が出ています」
なお、ある家電小売ではライブコマースの実施により「店員1人あたりの1日の接客人数を500倍に増やしている」と続ける瀧澤氏。同社は、ただライブコマースの場を設けるだけでなく、LINEやアプリの通知を駆使して集客強化も実施しており、積極的な変革と正しいKPIを置いた結果、生産性を顕著に上げた好例といえるだろう。
こうした成果は各社の努力のたまものといえるが、Fireworkは円滑なライブコマース実施とPDCAサイクルを回せる環境作りを機能面から支援している。
「Fireworkの機能の中で、特にクライアント様に評価いただけているのが、配信画面に搭載されている『PIP(ピクチャー・イン・ピクチャー)機能』です。同機能によって、ライブコマースの視聴者は、配信映像を見ながら商品のカート追加や購入が可能となります。
また、各種SNSへの同時配信に対応する『SNSサイマル配信機能』を搭載している点も、Fireworkの特徴です。Fireworkを使えば、スマートフォンを複数用意せずとも自社ECサイト上とSNSへ一斉配信ができます」
配信実施後のデータ分析についても、Fireworkの専任スタッフが毎回配信のレポーティングを行い、「売れる配信(=LTV向上に寄与する配信)」に向けて伴走。「Google Analyticsを使った、動画視聴者×購入記録分析、コホート分析、セグメント分析などにも対応している」と言及した上で、瀧澤氏は発展的な展開として、MAツールやCDPとの連携ができる点も強調した。その上で、改めて体験構築としてのライブコマースの重要性をこう語り、セッションを締めくくった。
「ライブコマースは、CRM施策として考えると非常に効果が出るものです。LTVを軸に、明確なターゲットに向けた魅力的なコンテンツを作り、効果的な手段で周知すれば、結果は必ずついてきます。デジタル上で深い接客体験を提供すれば、良い購買体験は生み出せる。この言葉を忘れずに、ぜひライブコマースにも取り組んでいただけたらと思います」