働き方と育児環境が様変わりした平成 自社ECを立ち上げたきっかけは?
1950年、「子どものためにより良いものを」という情熱に燃えた4人の女性たちが起こしたベビー・子ども服ブランドの「ファミリア」。戦後間もない混乱期に、海外から哺乳瓶や離乳食を輸入したり、欧米の育児法を踏まえ、新たなベビー服やおむつの仕様を取り入れたりと、日本の子育てに新たな風を吹き込んだ同社について、小山氏はこう語る。
「『何をどう取り入れれば子育てしやすい環境が生まれるのか』について考え、いち早く新たなものを取り入れてきたのがファミリアです。ものの使い方や暮らし方における提言を、長年行ってきた自負があります」
そんなファミリアは、1990年代には電話やFAXで注文できるカタログ通販を展開するなど、販売手法の多様化にも積極的だった。しかし、創業50年を迎え、付き合いの長い顧客が増えるとともに新たな挑戦ができていない点に課題を感じた時期もあったという。
「創業時のお客様が親、祖父母になり、顧客層は拡大していたものの、既存顧客との親和性を重視するあまりに『どこまで伝統を守り、どこまで攻めるのか』と悩んでいました」
社会情勢に目を向けても、1999年の改正男女雇用機会均等法の施行を契機に、若年層の働き方や生活スタイル、子育ての環境が大きく変わりつつあった当時。ファミリアの顧客も、かつては出産前に何度も来店して商品を吟味するケースが多かったが、働く女性は産休から出産までの短期間で子育てグッズをそろえなければならず、時間と機会損失が課題となっていた。
「こうしたお客様に、時間を気にせずお好きなタイミングで望む商品が見つけられるように、2013年に自社ECを立ち上げました」
オムニチャネル化から見えた旧組織体制の課題
ベビー・子ども服を中心に扱うファミリアの顧客が求める商材や情報は、出産準備期から生まれた後の月齢・年齢に応じて異なっている。店頭ではスタッフが接客を通して得た情報から、顧客に合ったアドバイスをしていたが、自社ECでは顧客自らこうした情報にたどり着ける状況を作らなければならない。
そこで、ファミリアの自社ECでは「出産準備期」「乳児期」「幼児期」「入学・卒業」など、ターゲットやシーズン、イベントごとにLPを作成し、情報の整理と可視化を実施。店頭に足を運べなくても、顧客にフィットする情報が届きやすくなった点について、小山氏は「自社ECが果たした大きな役割の一つ」と説明した。
「ファミリアの商品は、ロット数の関係から各店舗に数点ずつしか在庫が割り当てられないこともあります。自社ECで商品を見て、出産前や育児中の忙しい合間を縫って来店いただいたにもかかわらず商品がなかった場合、自社にとって機会損失になるだけでなく、お客様の落胆にもつながってしまいます。そこで、お互いが幸せになれるよう2016年にはオムニチャネルサービスを開始し、自社ECから店舗受け取りや取り置きが実現できるようにしました。現在のEC化率は約20%、店舗との併用率も着実に上がっています」
今でこそ、アパレル企業の多くが取り入れている店舗受け取り・取り置きサービスだが、2016年当初は「社内で理解を得るのに苦労した」と明かす小山氏。「オムニチャネルって何?」というスタッフに対し、システム導入開始以前から説明会を実施してきたが、文化として浸透させるにはやはり苦戦したようだ。
「オムニチャネルサービスは店舗の売上を奪うものではなく、顧客や店舗、働くスタッフ全員にメリットがあり、売上向上などの相乗効果が期待できると理解を促すのが、特に大変でした。スタッフに当事者意識をもってもらうため、店舗ごとのオムニチャネルサービス利用率や、同サービスからのCVRを評価軸に盛り込むなど、人事制度にも手を加えた時期がありました」
オムニチャネルサービスを広げる中で、チャネルや商材ごとに分かれていた当時の組織編成も足かせとなることが明らかになり、ファミリアでは2020年に部署構成を大きく変更している。商品を作るまでのフローに携わる「商品部」、商品を売るためのアプローチをメインに考える「営業部」、その他の業務を手掛ける「総務人財部」の3部体制に移行し、チャネルを横串で見られるようになり始めたタイミングで押し寄せたのがコロナ禍だ。
「『店舗が開けられない』となった2020年春は、ちょうど創業70周年の大々的なキャンペーンを実施するタイミングでした。急きょ、店頭では大々的なキャンペーンをせずに自社ECを中心に展開したのですが、限定商品の販売に向けて大量の商品在庫を抱えていたため、自社ECやオムニチャネルサービスがなかったらどうなっていたかと考えると、ぞっとします。オンラインで販売する環境と、連携できる組織体制の準備がギリギリで間に合っていて良かったと思いました」