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ファーストパーティデータをアンロックせよ
小売DXが進みデータに基づく意思決定が促進され、すべての小売業者はデジタルカンパニーへと変貌しつつある。そんな中、第4回で解説した「体験」を通じた顧客データは、重要な資産となっている。
顧客データをはじめとしたファーストパーティデータは、主にCRMに活用されている。一方、さらに有効活用する手法として注目を集めているのがリテールメディアである。
小売業者の実店舗・ECサイト・アプリといった顧客接点を、広告枠として広告主(主に仕入れ先)に販売するリテールメディア。現在、検索広告やSNS広告に次ぐ市場規模にまで拡大している。
その成長をけん引しているのがアマゾン・ドット・コムだ。特にECサイト上の広告掲示で、顧客が広告主の商品を選びやすい状況を生み出し成果を上げている。
そんなアマゾンを、米・小売大手のウォルマートが追随する。同社は2021年に自社の広告代理業機能をもつ「Walmart Connect」を立ち上げた。アプリを中心に、サイネージなど実店舗も巻き込んだリテールメディアの仕組みを形成している。
リテールメディアのメインストリームはアマゾンやウォルマートなどの巨大企業であり、検索時や陳列棚で自社商品が選ばれやすいよう広告を表示する手法だ。数多の顧客とその顧客らがもたらす大量のデータが、こうした企業の優位性を高めている。扱う商品が低価格でもビジネスが十分に成り立つ事業規模な上に、さらなる収益性の向上に成功しているのだ。
では、大企業でなければリテールメディアは成功しないのか。残念ながら、現時点で2社のような企業を除いて、リテールメディアで成功した事例は多くない。
現在、リテールメディアネットワークが整備され、メーカーの広告予算がリテールメディアにも多く割かれ始めている。これからは、中小規模の小売業者も多少の恩恵が受けられると期待できる。しかし、競合他社と差別化できる戦略としては物足りず、大企業の競争優位性を覆すほどのインパクトを生むのは難しいだろう。
つまり、自社にもリテールメディアの波が訪れるのを待って広告収入を得ようとするだけでは、競合他社と何ら変わらない取り組みとなってしまう。
リテールメディアの魅力は、広告収入だけではない。「リテール広告」ではなく「リテールメディア」と呼ばれるのは、小売業者がメディアとしての機能をもつ重要性が強調されているからだ。
小売業者がメディア化に向け最も重要視すべきは、メディアを見る顧客であり、ファーストパーティデータだ。小売業者は、これまでも会員システムやポイントカード、ECサイトを通じてファーストパーティデータを取得してきた。しかし、それらを十分に活用できていなかった。
ファーストパーティデータの力のアンロック(解放)こそが、リテールメディアを戦略的に考える上で求められる。