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ロイヤル顧客を育てるユニファイドコマースとは?
小売りは以前から、オムニチャネル化やOMO戦略に投資してきた。デジタル決済によるレジの待ち時間短縮、オンライン上で購入した商品の店舗受取などがその例だ。特に、コロナ禍で加速したデジタル接客、ライブコマースなどへのDX投資は、顧客体験を大きく変えた。
しかし、これらはまだ部分最適にとどまっている。顧客体験で差別化できるほど強い仕組みにはなっていない。
そこで求められるのが、ユニファイドコマースだ。ユニファイドコマースは、オンオフを問わず、一人ひとりに最適なアプローチを行う手法を指す。顧客体験の向上が目的である点でオムニチャネル化やOMO戦略と同じだが、アプローチ方法に大きな違いがある。オムニチャネル化・OMO戦略が事業者目線なのに対し、ユニファイドコマースは顧客目線の手法だ。
ユニファイドコマースには、ロイヤル顧客化やLTV向上など、CRMの要素が強く含まれる。そのため、在庫・価格・購買行動といった多様なデータを一元管理しなければならない。より高度なデジタル戦略ともいえる。
「どこで買ったか」ではなく「どう使ったか」を知る
Amazonによる実店舗への進出が、小売りのDXを加速させたといっても過言ではない。同社はEC上のデータ活用や、データに基づいたオフライン戦略を次々と打ち出してきた。自社で収集したファーストパーティーデータで、顧客体験を改革している。
特に、顧客が「何を買ったか」ではなく、「どのように商品を使ったか」の情報を取得している点が、Amazonの特徴の一つだ。たとえば、電子書籍サービス「Kindle」では、「ある小説を購入した顧客の多くが3日で読み終わっている」といった情報を取得している。そして、取得した情報を基に、レビューやレコメンドの効果を最大化させている。
レビューやレコメンドは、今やECビジネスに欠かせない仕組みとなった。実際の商品に触れる場や直接の接客を提供できない代わりに、他者のレビューで信頼性を担保し、レコメンドで顧客に合った提案をする。
それにもかかわらず、いまだに多くの事業者は、顧客が「商品をどこで認知して買ったか」というデータしか取得しておらず、レビューやレコメンドを十分に活用できていない。これらのデータで生み出せるのは「購買体験」であって、「顧客体験」ではない。真の顧客体験は購入後に起きている。
第1回で取り上げた「NIKE」も同様に、アプリから顧客のランニングの頻度、スピードといったデータを取得している。
新たなデジタル接点で取得した顧客の「行動」や「体験」データを、レビュー・レコメンドに活用すれば、新規顧客が購入しやすい状況や既存顧客のLTVを高める仕組みを創出できる。
大量のデータを収集してセグメント分けするのではなく、「必要なデータ」を集めて最適な施策を行う戦略だ。つまり、ファーストパーティーデータが経営活動を加速する重要なエネルギーとなる。
そして、ファーストパーティーデータを効率的に収集するには、顧客とのつながりをビジネスの核とするメンバーシップマーケティングの再考が求められる。