土日にもどかしさを感じたコロナ特需
「日清食品グループ オンラインストア」が、2016年9月に行った大規模サイトリニューアル。この案件を指揮していたのが、当時マーケティング部に所属していた佐藤氏だ。前回取材以降、コロナ禍を挟んで世の中や日本のメーカーにおけるeコマースの立ち位置が大きく変化したといえるが、日清食品を取り巻く環境はどうだったのか。率直な質問を投げかけたところ、佐藤氏はこう答えた。
「2020年春の緊急事態宣言時には、急速に需要が拡大しました。『外出自粛とEC購入がこんなにもダイレクトにつながるのか』と驚いたのが記憶に新しいです。コロナ禍のまとめ買い需要と、メイン商材の即席麺がフィットして新規顧客が大幅に増加し、まさに『特需』といえる状況でした。社内でも『ECの売上が大変なことになっている』とざわついたほどです」
当時のEC業界は、急激な発注増によりオペレーション面での混乱も生じていたが、日清食品ではコロナ禍以前から可能な限りデジタル化を進めていたため、受発注管理、CRM、物流など人による作業面での問題はほぼ生じなかったという。ただし、予想を上回る購入希望者増に商品供給が追いつかなかった点には、課題を感じたそうだ。
「『日清食品グループ オンラインストア』では、ケース単位で割安に購入できる商品もご用意しているのですが、一度に数ケース買われるお客様が増え、一時期はほぼすべての商品がすぐにグレーアウト(売り切れ)してしまう状況でした。EC倉庫への在庫補充は2営業日に1回行われていますが、土日に売り切れてしまうと週明けまで補充されないため、もどかしさを感じていましたね」
円滑なオペレーションには人の温かさも必要
コロナ禍を契機に、リモートワークが定着した日清食品。EC運営に携わるダイレクトマーケティング部では、オペレーションのデジタル化が進んでいたこともあり、「業務は支障なく回せる状況だった」と振り返る佐藤氏。しかし、コミュニケーション面は別問題だ。
「対面であれば、タイミングを見て『ちょっとすみません』と話しかければ済むことも、画面の向こうで相手がどんな状況かわからないと、気が引けてしまう。特に入社から日が浅いメンバーは、対面で十分な関係性を築けていないため、気を遣う場面が増えてしまっていると感じました。
こうした小さなためらいが報告の遅れを生み、すぐに対処すれば解決できたトラブルも影響範囲が大きくなってしまったり、二次・三次的なトラブルにつながったりする恐れがあります。『これは危険だ』と思い、私から風通しを良くしよう、話しかけづらい状態を作らないようにしようと心がけていました」
加えて佐藤氏は、メンバー同士で人となりを知ったり、信頼関係を築いたりといったことも必要と考え、勤務形態がリモートメインだった時期には2日に1回、朝15分の定例ミーティングを実施。「起きぬけのすっぴんでも部屋着姿でも構わないので、ちょっとした業務内容の確認や元気な姿を見せてほしい」と伝えて、交流を図るようにしていたとのこと。
現在は出社頻度も増え、対面での会話や相談が円滑にできるようになったため、定例ミーティングはなくしたそうだが、佐藤氏は「この時のコミュニケーションが今のダイレクトマーケティング部の雰囲気作りに大きく作用している」と語る。円滑に業務を回すには、テクノロジーによる効率化だけでなく、人と人との会話、関係性構築といった温かさやアナログ的な要素にも気を配る必要があることを象徴した例といえよう。