ライセンスブランド本部の後押しが自社EC進出のきっかけに
「世界一の高級化粧品メーカーになる」という夢を持ち、1956年3月に生まれたアルビオン。百貨店・一流化粧品店など、直接ブランドの世界観を伝えられるチャネルに絞って実店舗を展開し、自社ブランド・ライセンスブランドの価値を高めてきた。そんな同社が、自社EC進出を決めたのは2018年。どんな経緯があったのだろうか。
「実は決断する数年前から、ANNA SUI、PAUL&JOEの本国より『なぜオンラインでは販売しないのか?』と聞かれていました。欧米での買い物習慣からすれば当然の提案とは思いましたが、当社は実店舗での接客を大事にしたいという想いが強いので、そこまでECには積極的になれなかったのです」
しかし、顧客の動きを見ながら熟考する中で、徐々にこうした考えにも変化が現れてきたという。
「限られた店舗展開で、ブランドの世界観をきちんと表現する。これについて、販売店様からは高い評価をいただいていましたが、ブランドに興味を持っても生活圏に店舗がなく、物理的にブランドと出会えないお客様の存在がどうしても気になっていました。やはり自社ECは必要だという結論に至り、まずはANNA SUIから展開を始めたのです」
販売店側が先に気づいていたEC需要 社内の反応は?
その後、PAUL&JOE含む複数ブランドの自社EC立ち上げを経験した榊原氏。現在は3ブランドに各2名の担当者をつけ、計6名の組織で運営を行っている。急速にオンラインの販路を拡大した形になるが、長年付き合いのある百貨店や化粧品店から反発の声はなかったのだろうか。
「立ち上げ前には、販売店様からのお叱りも覚悟していました。しかし、店頭でお客様の声を直に聞いている販売店様のほうが、お客様の買い物行動を深く理解しており、オンライン進出で生まれるメリットを先に感じ取っていました。『顧客接点が増えれば、“ブランドの世界観を生で体験したい”と来店動機が生まれる機会も増加する』と後押しくださるだけでなく、『では、私たちは来店時の顧客体験をより洗練させます』と、心強いエールも送ってくれました」
その一方で、「社内の指標や協力体制構築には苦慮した部分もあった」と続ける榊原氏。その理由は、EC特有の「売上が生まれる瞬間をこの目で確認しづらいこと」にあったという。
「対面での営業・販売は目の前で商品が動くため、『私がこのお客様に対してこの商品を売った』という自覚をしやすいといえます。しかし、ECは数字で結果が見えても『誰の数字なのか』が見えないため、EC担当を任命しても当事者意識を持ちにくいという状態でした」
そこで榊原氏は、自社ECにかかる経費とそこから生まれる利益を積極的に開示。キャッシュフローなど、従来型のビジネスとの相違点や効率性を伝えることで、社内の理解を促進した。
「私を含む社内の誰もがEC未経験者で、右も左もわからない状態です。わかってもらうために、データをフル活用しました」