日本のブランドバリューは想像以上にある 5年、10年後を見据えた挑戦を
続いて三者は、越境ECおよびグローバルEC展開時の注意点や展開前の事業者が抱く疑問について、Q&A形式で回答を進めた。まず取り上げたのは、「越境ECはわが社に関係あるのか」「取り組んでいるのは一部の事業者なのでは」といった質問だ。
これに対して大津氏は、2021年にペイパルが日本の中小企業を対象に行った調査で回答者の45%が「越境ECをすでに行っている」または「行う予定がある」と答えたと紹介。中村氏は、回答者の16%が「計画中」と回答している点や、「すでに行っている」と回答した事業者のうち、コロナ禍で越境ECを始めた事業者が39%を記録している点に触れ、「『やらなくてはならない』という焦燥感を持つ事業者と、コロナ禍で越境ECに取り組んでみたものの、継続する難しさを感じている事業者がいるのではないか」と分析した。
「注意していただきたいのは、越境ECを始めたらお金が降ってくるわけではないということです。市場も常識も異なる中で推進するのは苦労も多いですが、きちんと取り組めばそれだけ市場も広がります。たとえば、日本産デニムは日本国内ではニッチな製品かもしれませんが、世界中の60億人をターゲットにすれば『日本』というブランドを武器に大きな市場に挑むことができます。こうした可能性が越境EC、グローバルECの魅力と言えるでしょう」(Lingble 原田氏)
次に挙げたのは、「実際に越境ECを始めて売れるものなのか」といった質問だ。大津氏は「ショッピング体験が変わりつつある中で、実際に利用者が何を購入しているか見てみると、ヒントを得ることができる」と説明した上で、オンラインショッピング利用者の57%が「海外通販を利用している」と回答しているペイパルのデータを紹介した。
さらに大津氏は、ペイパルが2021年に実施した別の調査から「外国人からのオンライン購入が多い国トップ5」のデータを提示。日本は中国、アメリカに次ぐ3位と高順位をマークしている。各国消費者の越境ECでの購入先を見ると、アメリカでは5位、ブラジルでは3位、香港では2位、中国では1位を記録しており、「日本の事業者にはチャンスできる市場が多数存在する」と述べた。中村氏はこうした結果を踏まえ、「日本にいると日本の魅力に気がつかない方も多い。それは非常にもったいないこと」と補足する。
学生時代をアメリカやスイスで過ごし、モンゴル、中国、オランダなどでの勤務経験を持つ原田氏。現在はフランスで暮らしているが、これまで海外で接してきた人々からの声を振り返りながら、日本の魅力をこう語る。
「日本のブランドバリューはたいへん高く、とくに無形資産の大きさは世界各国から羨まれるほどハイスペックであると言えます。円安といった一時的な社会情勢による価格の問題だけでなく、日本人が認識している以上の価値がそこにはあるということです。こうしたブランド力、商品力を意識して事業展開を進めれば、5年後、10年後にこれまでとまったく異なる成長が見えてくるでしょう」(Lingble 原田氏)