激戦のQRコード決済市場をデータで戦う
「d払い」はNTTドコモが2018年に開始したQRコード決済サービスだ。QRコード決済の普及時期と重なったこともありユーザーは急増。初年度(2018年)は1,200万人だったのが、2019年には2,500万人、そして2021年には4,400万人と増えている。取引高も、開始から3年で初年度の10倍となる1兆2,560億円(2021年時点)に達している。
NTTドコモは日本最大手のモバイルキャリアではあるが、モバイル事業は成熟期にあり、非モバイル事業は同社にとって戦略的に重要だ。同社は現在、メインの通信事業に加えて、法人事業、スマートライフ事業の3本の事業の柱を持ち、d払いはスマートライフ事業に入る。8,900万人という膨大な会員基盤を活用すべく生活に密着したサービスの提供を目指しており、d払いも単に決済手段を提供するだけでなく、加盟店に対してクーポン配信などマーケティングサービスの支援も行っている。
「d払いは単にペイメント製品ではなく、ユーザーの生活をサポートするさまざまなサービスを含む製品です」と田原氏は説明する。d払いが利用できる箇所は400万に達しているという。
まだまだ現金決済が7割を占める日本、QRコード決済のようなキャッシュレス市場は潜在的に大きな市場だ。だからこそ、この市場は競争も激しい。
そこでNTTドコモが進める戦略が「データの民主化」だ。「顧客の洞察に基づいたマーケットイン、部門全体でのトータルアプローチ、効果を測定・共有して高速にOODA(Observe:観察、Orient:判断、Decide:決定、Act:実行)ループを回すーーこの3つを進めることで、ナンバー1のQRコード決済サービスを目指す」戦略だという。「データを共通言語にしたい」と田原氏は付け加える。
データの民主化は、それ以前から全社で進めていたデータドリブンという経営方針にも沿うものとなる。田原氏は、「共通ポイントのdポイントプログラムを展開していることもあり、データはどんどん増えている状況です。蓄積したデータをしっかり分析できる環境を作り、データドリブンなマーケティングをするという流れはありました」と振り返る。
さらには、自分達の目的に合った分析ができるようにすることも課題だったという。「ボタンの配置を変えたり、画面のUIを調整したときに、実際にお客様の決済に繋がったのかという部分を知らなければ改善はできません」(田原氏)。
ユーザー行動を分析するプロダクトアナリティクスを導入した背景
データとしては、dアカウントに紐づいたdポイントクラブを通じて許諾ベースで収集した会員の基本情報、携帯電話の位置情報、決済サービスなどのデータなどがある。これらのデータは秘匿性が高く、規制を満たした形で保管されている。各事業部は自分達が使いやすいように思い思いに構築しており、「自分達のデータを他の部署と共有するとは想定していなかった」ため、まずは必要なものを繋ぐというアプローチで進めたそうだ。
このようにして構築している共通のデータ基盤にはメインの携帯電話事業のデータも一部含まれており、dアカウントの番号、携帯電話の基本契約番号などからデータを引っ張ることができるようにしているという。
このようなデータを揃える作業に加えて、リアルタイムにデータが連携されているのかも重要だ。バッチで月に一度データが入ってくる仕組みは容易に実現できるが、それでは価値が生まれにくい。「実際にサービスや企画を運営している側からすると、タイムラグがないことが理想」だ。
すでにキャンペーン管理の「IBM Campaign」や「Salesforce Marketing Cloud」を導入して、分析をしたり顧客に向けたアクションの部分の仕組みは構築していた。しかしデータの民主化とリアルタイムでのデータ連携をさらに進めるために、プロダクトアナリティクス(分析)ツール 「Amplitude」を導入することにした。
プロダクトアナリティクスとは、デジタルプロダクトをユーザーがどのように使っているのかの行動分析を行うもの。これにより、プロダクトの使用に関するデータが得られ、どこでつまづいているのかといった分析も可能になる。同社のグループ会社であるDearOneがAmplitudeの代理店を務めていたこともあり、海外の事例などの情報に以前から注目していたという。
導入を決めた具体的な評価ポイントとして、「大規模なデータを高速に処理できること」「必要なところにデータパイプラインを作成してリアルタイムにデータの挿入ができる」などを挙げた。