物価上昇で見直したい商品価格と付加価値
日本でも物価が上昇している。メーカーは原材料費が上がるため商品の値上げを検討せざるを得ない状況だ。小売事業者であっても、仕入れ価格が高騰すれば価格に反映せざるを得ないだろう。河野さんにはEC事業者から、値上げについての相談が寄せられていると言う。
「値上げをすると売れなくなってしまうのではないかと心配されている事業者様が多いです。しかし全世界的なインフレですから、サステナブルにビジネスを継続していくためには、最終的には値上げの選択肢を取らざるを得ないでしょう。このご時世で値上げを理由に離れてい ってしまうお客様がいたとしたら、残念ですが本来の意味でのファンにはなっていただけていなかったことを意味しています」
値上げの際、顧客に対してどのように説明を行えば納得してもらえるのだろうか。
「正直に、誠実に説明することだと思います。大前提として、値上げせずに済むよう企業努力を行ったかは重要です。原材料費の高騰であれば、具体的にどの材料がどれくらい値上げしたのかも説明しましょう。そのうえで、クオリティを維持することがお客様の期待に応えることだと判断し、値上げに踏み切ったのだと伝えましょう。理由をきちんと説明できない場合、便乗値上げだと誤解されてしまう可能性がないとも言えません」
原材料費の高騰でやむを得ず値上げを行う場合でも躊躇してしまうのは、根本的に自社の商品に対して自信が持てていないからではないかと河野さんは言う。
「ECの世界においては、それほど商品にこだわらなくとも、ネットで販売しているだけで売れる時代があり、今でもその流れを引きずっているところがあると思います。忘れてはいけないのは、日本の商品そのものは良いものが多いということです。日本はものづくりはできるがマーケティングが不得手だと言われることもありますが、ものづくりに力を割く度合いが大きかったというだけで、ものづくりに真摯に向き合うことは今後も重要です。そして、機能面ではグローバル展開しているブランドにはかなわない。個々の中小ブランドは、付加価値をつけていけるかが勝負になります」
中小ブランドが取り組むべき価値の付与とは、顧客を巻き込んで商品をより良くしていくこと。そしてその手段としてインターネットは欠かせない。つまり、本来の意味でのD2Cに取り組んでいくことになる。
「クラウドファンディングや応援消費が伸びているのは、お客様が商品開発の工程に携わることが楽しいと思っているからではないでしょうか。ECだからこそ、お客様に向き合い、ニッチな商品開発ができてビジネスとしても成功すれば、商品に対する自信にもつながると思います」
もうひとつの付加価値は、アフターケアなどを含むサ ービスだ。
「個人的な経験ですが、海外のメーカーから直接自転車を購入したところ、その後のやりとりであまり良いサポートを受けられず返品しました。似たスペックの別のブランドの自転車を地元の自転車屋さんから購入したところ、その場で防犯登録をし、保険に入れたり、修理が無料になるサービスを案内してくれたりと、自分では気づけない提案もしてもらえました。高額な家電を購入する場合、大手量販店で購入する人が多いのは、保証を含めた信頼があるからだと思います。ECで言えば、大手モ ールへの信頼もやはり厚いです。個別のブランドも、『ここで買っても大丈夫だ』と思っていただけるような信頼を築き上げていけるかが、たとえ値上げをしてもそのお店で買うというひとつの決め手になるのではないでしょうか」