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ECzine Day 2024 June

2024年6月6日(木)10:00~17:40(予定)

ECホットトピックス(AD)

柏木工機がBtoB-ECシステムにSAP採用 DXを成功に導く「一点突破」の見つけかたとは

 機械工具専門商社である柏木工機は、2018年から構造改革に着手。「SAP Commerce Cloud」などSAPのソリューションを導入し、2020年より稼働している。目指すのは、従来の守りから攻めの姿勢に変わり、顧客視点のDXを実現することだ。中小企業がDXを成し遂げるために必要なものとは。柏木工機 柏木秀太氏とSAPジャパン 富田裕史氏に対談してもらった。

守りから攻めへ 柏木工機がSAPをパートナーにDX推進

 2021年11月18日、SAPジャパンはイベント「SAP CX DAY 2021」を開催。「守りから攻めへ、機械工具専門商社 柏木工機の挑戦と顧客起点のDX」と題し、柏木工機株式会社 代表取締役社長 柏木秀太氏が登壇した。

 商品点数100万点を取り扱う機械工具専門商社である柏木工機は、1916年(大正5年)創業と100年を超える歴史があり、取材時点で従業員数は60名ほどの規模の、いわゆる老舗中小企業だ。デジタルに強い社員は社長含め数名という状況下で、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の感染拡大以前からDXを推進していたのは、先見の明と強い意志があったと言えるだろう。

 柏木氏は、創業100周年となる2016年に代表取締役社長に就任。2018年から構造改革に着手し、ERP「SAP Business ByDesign」、コマースソリューション「SAP Commerce Cloud」を導入、いずれも2020年より稼働している。

 イベント終了後、中小企業のDXをメインテーマに、柏木氏とSAPジャパン 富田裕史氏に対談してもらった。

生き残りを賭け、卸売業からコンサルティング業へ

富田(SAP) ECの市場は大きく、BtoBとBtoCのふたつに分けることができます。2021年7月に発表された、経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、国内のBtoC-EC市場規模19.3兆円、BtoB-EC市場規模は334.9兆円で、BtoBのほうが圧倒的に大きいことがわかります。「SAP Commerce Cloud」は、BtoBとBtoC、どちらにも対応できるコマースソリューションです。BtoB-ECのプラットフォームとして「SAP Commerce Cloud」をご利用いただいている柏木社長に、ぜひお話いただきたいと考えました。

 また、SAPは大規模企業向けに展開しているという印象をお持ちの方が少なくありません。しかしながら、柏木工機様にご導入いただいたERP「SAP Business ByDesign」はじめ、中小企業様向けのソリューションもご用意していますし、2022年度は中小企業様のマーケットにリソースを一気に投入するという戦略も立てています。このような背景から、柏木工機様のお取り組みを多くの方に知っていただきたく、今回イベントへのご登壇をお願いしました。

柏木(柏木工機)  当社にとって、SAP様のソリューションの導入は大きな投資でした。月々のランニングコストが売上の1%に相当します。当社の粗利は10%ほどですから、IT投資の大きさがおわかりいただけると思います。とはいえ、IT投資により業務が効率化され、少人数で運用できるようになり、ランニングコストは吸収できています。倍の売上を作ることができる体制が整ったため、それをやり切れるかどうかでIT投資の成否が問われるでしょう。「デジタルマーケティング部」を立ち上げており、今後はマーケティングにも投資をしていきます。正直なところ「いつになったら儲かるんだ」と思うこともありますが、投資し、変化をし続けなければ、それこそ市場からの退場を求められてしまいます。

 「SAP Commerce Cloud」は、自社のEC業務のためのものだけでなく、当社の卸先である販売店様をフルサポートするためのひとつの武器と捉え、導入しました。IT投資の他に、部署として「ストアコンサルティング部」を立ち上げています。販売店様をフルサポートし、モノ売りの商社からコンサルティング会社に近い業態に変化していこうと考えています。このふたつの新しいチームが密に連携を取りながらBtoBtoB、BtoBtoC、と言われるビジネスをやっていく。お客様にとって戦略的パートナーとなり、既存ビジネスに大きな付加価値を付ける。それができなければ、生き残るのは難しいでしょう。

 このような構想でDXを進めていくにあたり、SAP様のシステムを導入させていただくことにしたのは、システム間の連携性とクラウドであることが決め手でした。災害や新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)のようなパンデミックが起きた際にも、商売を止めないことは非常に重要だと考えています。もちろん、クラウドは大元のクラウドが止まるということもあり得ますけれど。

柏木工機株式会社 代表取締役社長 柏木秀太氏

富田(SAP) 柏木社長からご相談をいただいたのは、パンデミック以前のことでした。ご構想を共有いただき、私たちSAPと、SAPのソリューションを用いて構築するパートナー企業様とともに、社長が描かれたゴールに到達するにはどうしたら良いかをともに考えてきました。SAPは、グローバルでさまざまな業種業態のお客様とお付き合いをさせていただいておりますので、アイデアは多数持ち合わせています。システムだけでなく、先進企業の知見をご提供できるのもSAPならではの強みです。

 DXやBtoBtoXのご相談をいただくことが増えています。なかには、経営者の方が「DXをやれ」と号令をかけながらも、自社なりのDXが明確になっておらず、CDOなど推進者となる方たちが、自社のDXとは何かを考えるところから始まる場合もあります。柏木社長のようにご構想を持たれ、IT投資の損益分岐がどのタイミングで来るかまで把握していらっしゃるのは、ご相談いただく私たちとしても非常にありがたいことです。

 柏木工機様では、「SAP Business ByDesign」の導入を2018年、「SAP Commerce Cloud」を2019年に決定いただき、どちらも2020年から稼働しています。システム導入のプロジェクトを率いる人材がいらっしゃったのも素晴らしいと思います。デジタル人材不足、育成に関するお悩みもよくご相談いただきますから。

IT人材不在 システム導入と人材育成を成功に導くには

柏木(柏木工機) パンデミック前から、この構造改革を実現するためにEC系人材の採用を進めていましたが、当初は私のビジョンに共感し、共に進めていけるコア人材はなかなか見つかりませんでした。そもそも、システム系やEC系人材はどこの企業でも欲しくて欲しくて仕方ない状態でしたから。本当に幸運だったとしか言いようがないのですが、まったく異なる業界からチャレンジマインドとマネジメントスキルを持った人材を採用することができました。コーポレートサイトの内容を充実させていたことも功を奏しました。

富田(SAP) ITのスキルはあったとしても、異なる業種業態からの転職の場合は、ビジネスにフィットするのが難しいのではないでしょうか?

柏木(柏木工機) 当初は前職と共通項のある、BtoCのシステムの仕事から始めてもらいました。当社の既存人材にはなかった発想や多彩なスキルを持っており、また、プロジェクトに慣れている様子を見て、権限を持ってもらい構造改革にかかわる他の仕事も任せるようになりました。「SAP Commerce Cloud」を導入するプロジェクトは難易度が高いだろうと思っていましたが、当初の計画通りにきちんと進めてくれましたから。前向きな思考、課題設定力、やり切る力、そしてマネジメントに慣れているかどうかは重要ですね。他には周辺システムを整備・開発するために、海外オフショアチームを彼中心に構築といった取り組みも行いました。当社としても初めての取り組みであり、本当にゼロのところからスタートしたのですが、密にコミュニケーションを取りながら彼と一緒に作り上げることができました。彼なしには、この構造改革は進んでいなかったはずです。

 当初考えていたとおり、業務改善のための周辺システムは自社で、コアな部分はSAP様にお願いする形で進めることができました。中小企業で変化を起こすには、外部人材の採用や活用はキーになると思います。この先、経営側は異業種や多種多様な人材を受け入れる姿勢を持つことが大切です。大企業に比べ、中小企業ではシステム導入の陣頭指揮を取ることができる人材がいるほうがめずらしいと思います。

富田(SAP) 原因は企業規模ではないかもしれません。規模の大きい企業様であっても、さまざまなステイクスホルダーがいらっしゃり、陣頭指揮を取る方がなかなかうまく動けず、長々とプロジェクトが終わらず、継続してコストがかかってしまうような事例も知っています。もちろん会社から評価されることはありませんし、組織としては危険なプロジェクトですよね。

SAPジャパン株式会社 SAP Customer Experience事業本部 バイスプレジデント 事業本部長 富田裕史氏

柏木(柏木工機) システム導入だけでは終わりませんからね。「SAP Commerce Cloud」を導入し、結果的にインサイドセールスを省力化したのですが、システムを導入しただけでは、働きかたも成果も変わりませんでした。中長期的な経営視点を持ったマネジメントができるコアメンバーをどれだけ多くできるか? 会社の歴史が長ければ長いほど慣習から抜け出すのに苦労します。構造改革には相当のパワーが必要になります。やはりそういう意味でも外の世界を知っている人材を積極的に受け入れて、既存社員が化学反応を起こせる環境を作ることも重要だと思います。DXにはこの化学反応とシステムのふたつが重要です。会社方針などで取り組みの重要さを何度も何度も伝えてきました。

富田(SAP) ECは売上を作るシステムですから、基幹システムと同じくらい重要なものですよね。その導入プロジェクトを中小企業の社長や副社長の方々が率いることは、それほどめずらしいことではありません。何より、自社の業務をとことんご存じですから、会社のビジョンと近いシステムが出来上がるのです。私たちもお手伝いしていて楽しいですし、プロジェクトが進むごとにビジネスの成功を確信できます。

 トップが改革を押し進めながらも、抵抗勢力と言いますか、変化を望まない人が出てくることはめずらしくありません。柏木工機様の場合はいかがでしたか?

柏木(柏木工機) 変わろうとする人間と、「変わることができません」と言ってくる人間、どちらもいます。30年前に私が入社した30年前には後者がほとんどでしたから、変化したと言えます。先ほども申し上げましたが外部の血を入れることで、既存社員で反応する人間が出る、そして、その輪がどんどんと大きくなっているのを感じています。外部の血を入れ始めた当初は、相当波風が立ちましたし、「こんなことはやる意味がない」「どうせできない」など抵抗勢力もありました。そして、大変残念なことではあるのですが、退職という決断をした社員や「変わることができません」という社員もいます。その場合には、社内の中で活躍できる場を探して、そこで力を発揮してもらうようにしています。構造改革とはいえ、従来の仕事もすぐになくなるわけではありませんから。

富田(SAP) SAPでは、新卒社員を上の立場に立たせます。彼らの意見を否定する人間は評価されないわけです。TikTokが当たりまえの世界で生きている人たちに、どうついていけば良いのか。発想がまるで違いますから、私自身も危機感を覚えています。

DXの成否と生き残りをかけた「一点突破」の見つけかた

富田(SAP) デジタル人材不足は共通の課題ですが、柏木工機様はこれからマーケティングにも取り組んでいかれますよね。時節柄、マーケティングオートメーションをご検討になるのではと思います。マーケティングオートメーションと言いながらも、従来のツールは、実質人間が運用するものでした。SAPでは、2020年にEmarsysを買収しています。

 Emarsysは、業種業態ごとにテンプレートをご用意しており、データを入れたら自動的に短期間で、プロセスが生成されるのが特徴です。一般的なマーケティングオートメーションツールで2、3ヶ月かかるところが、1日でできるというスピード感です。リソース不足を解消し、マーケティングプロセスを素早く回していきたい中小企業様向けにフォーカスしたソリューションだと言えます。

柏木(柏木工機) マーケティングに関してやりたいことはいろいろとありますが、まずは、ユーザーの方々のカスタマーデータをどれだけ取得できるかを目標に設定し、実行していきたいと思っています。工具Aを買った人は、消耗品Bをかならず買うといった購買行動は把握できています。今週工具Aを買ったら、来週消耗品Bをおすすめするといったようなご提案を自動でやっていきたいですね。すでに同業種の大手で取り組んでいらっしゃるところもありますが、当社のお客様である販売店様では、知見を活かしたユーザーへの提案がまだまだ属人的です。そこを当社がシステムでフォローしていこうというわけです。

 2022年は販売店様と協力して、展示会なども含めたBtoBtoBのオムニチャネルな取り組みをやっていきます。そういった場で取得できたカスタマーデータを、メーカー企業様に販売するところもありますが、当社はそれはやらないつもりです。共有して巻き込み、次に新しい取り組みをやるときにまた協力していただければと思っています。この取り組みで取得できたカスタマーデータの分析と加工ができれば、他にないサービスが生まれていくと思います。我々にしかできない価値創造で、新たな信頼を築いていきたいと思います。

富田(SAP) 本来の意味での360度のカスタマーデータは一気に取得できるわけではなく、順序立てて取得していく必要があります。そして、SAPのCDP(Customer Data Platform)は、マーケティングに限定せず、いつ購入し、いつ発送したといった、確定したデータも含まれます。販促の場合はゆるいデータでも良いのですが、購買行動のフォローに入ってからは、確定したデータをもとにコミュニケーションしていかなくてはいけませんから。CX(Customer Experience)全体を通したCDPをご提供しており、まだ始まったばかりですがすでに何社かお問い合わせをいただいています。

柏木(柏木工機) CXについて言えば、現時点では、コンテンツ制作と発信力のあるクリエイターのネットワーク構築に注力しています。ターゲットにきちんと刺さる記事や動画をどれだけ作っていけるかが勝負だと考えています。お客様の中にも発信力をお持ちの販売店様がいらっしゃり、一緒にやろうという方向になっています。

 最終的には、ひとつの販売店様につきファンを1万人作るということをやっていきたいと思っています。1万人のファンにどのようなご提案をすることで、年間いくら購入いただける、それが何店舗あると……という計算で売上が計画できます。ここまで明確なのは、業界に居て長いというのもありますが、我々のような弱小チームはニッチを深堀りし、一点突破するしかないからでしょうね。その一点が見つけられるかどうかは、DXの成否を大きく左右すると思います。ものがなかった時代は、「そうは問屋が卸さない」という言葉が示すように、問屋は強い立場にありました。今は逆の立場になりつつあります。お客様に戦略的なパートナーとして見ていただけるにはどうしたら良いかを考え、実行していきます。

富田(SAP) さまざまな企業様のお話をおうかがいする機会がありますが、柏木社長がおっしゃった「一点突破」の見つけかたについて、共通する解はありません。しかしながら、新しいものに興味を持ち、変化を恐れない経営者の方は、常にアンテナを張っています。そしてそのような方々ほど、私たちシステムベンダーを対等なパートナーとして見てくださっています。SAPの使いかたがお上手なのです。私たちは技術ばかりやってきたノウハウの塊です。私たちをハブにし、解を見つけ出すきっかけを作られていると思います。

 もうひとつ、解にたどり着くために有効なのは、少々使い古された言葉ですが「デザインシンキング」です。SAPもそれで変わりました。その経験を活かしてワークショップでお客様をファシリテートさせていただいています。リモートワーク下でも、デザインシンキングのワークショップへのご要望はとても多くいただいています。何からやれば良いのかわからない、既存のしがらみもあるという場合に、第三者であるSAPが入らせていただくとお役に立つようです。

 ご紹介したソリューションや事例などのノウハウ、ワークショップについても、ご興味をお持ちの場合はお気軽にお問い合わせいただければと思います。柏木社長、本日はありがとうございました。

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