在庫引当問題の解決なしにOMOは実現できない
セッションの冒頭にて臼谷氏は、東京駅周辺の写真を掲示し、このように語る。
「美しい街並みは、綿密な開発計画や基礎工事の上に成り立っていますが、OMO推進でも同じことが言えます。デジタル基盤という基礎部分を作り上げた上で、どのような顧客エンゲージメントを提供するか。このような順番で考えていく必要があります」(臼谷氏)
臼谷氏は、まずOMO型コマースの代表的なパターンと、それに付随する業務プロセスを3つ紹介した。ひとつめは、受注・決済・在庫引当・配送のすべてを基本的にはECで行う「EC完結」パターン。ふたつめは、受注・決済までをECで行い、店舗で在庫を引き当てた後、配送もしくは店頭で受け渡しを行う「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」パターン。3つめはECで受注し、決済以降を店舗で行う「EC予約・店舗取置」パターンだ。
臼谷氏は、「SAPジャパンの顧客企業にはいずれのパターンも存在するが、多くの企業がある共通の課題を抱えている」と言い、事例をふたつ紹介した。
事例1:国内アウトドアブランド
売れ筋商品が店舗の在庫として確保されており、ECの在庫が常に不足している状態となっていた。ECでの売上が販売スタッフに還元されず、店舗の評価にもつながらなかったことが原因。
事例2:国内ファッションブランド
ECで予約した複数商品の取置や決済を、ひとつの店舗でまとめて行うことができない状態となっていた。店舗が在庫を買い取るシステムで、商品が資産として店舗に紐付いているため、ほかのチャネルから自由に動かせなかったことが原因。
これらに共通して存在するのは、「在庫引当」に関する問題だ。本来は、顧客がどこからアクセスしても同様に在庫引当をすべきだが、それが実現できなかったために売り逃しが発生していたという状況を冷静に見つめる必要がある。現在も商品在庫の管理と店舗の評価が密接につながっている多くの企業には、現場を混乱させることなく、スムーズに実現できる「チャネルに依存しないデジタル基盤」が必要というわけだ。では、それはどのようにして整備できるものなのだろうか。
「店舗在庫を引き当てる場合は、『評価をどのように店舗に渡すか』を同時に検討する必要があります。この点がクリアになれば、適切な形でデジタル基盤を構築し、OMOを推進することが可能です」(臼谷氏)