クラウドと3Dプリンターでものづくりがアジャイルに
「3DEXPERIENCE World 2020」は、フランスの産業ソフトウェア企業 Dassault Systémesが傘下に収めるSOLIDWORKSのユーザーカンファレンス。今年は2月9日~12日に、アメリカ・テネシー州ナッシュビルで開催され、約6,000人が集まりました。
SOLIDWORKSは、Dassault Systemesが1997年に買収した企業で、3D CADを専門としています。
今年のイベントの目玉は、同社が進めてきた親会社Dassault Systémesとの統合、そしてクラウドでしょう。Dassault Systémesは、自社のコンセプトであり、技術プラットフォームとなる「3DEXPERIENCE」に、SOLIDWORKSの技術を載せていく方向性を打ち出しています。イベントでは、その成果として「3DEXPERIENCE WORKS 2020」が発表されました。
同社は今回、イベント名称も変更しています。「3DEXPERIENCE」を冠した名称に変更することで、Dassault SystémesとSOLIDWORKSとの間のギャップを埋めていこうという考えのようです。それもあってでしょう、イベントのテーマは、「Welcome to a new dimension ― powered by experience」でした。
そして、クラウドについてです。発表された新プラットフォームは、ウェブで動作する機能セットで、設計、シミュレーション、製造、管理など、製作作業で使われる機能が揃っています。ユーザーは役割に応じてツールにアクセスし、サブスクリプション形式で利用します。
これまでCADソフトといえば、高スペックなワークステーションで動かすイメージがありました。クラウドの波は、ここにも押し寄せています。2D CADに強いAutodeskもクラウド版を用意しており、新規参入として元SOLIDWORKSの開発者によるOnshape(2019年末にPTCが買収)もあります。シェア大手であっても、もはやクラウド戦略なしでは戦えないという同社の認識が透けて見えます。
CADに限らず、オンプレミスで地位を築いた企業はどこも、クラウドモデルの移行を注意深く進めています。変化するユーザーのニーズに適応しつつ、競合と戦い、そして収益を上げていかなければならないからです。
SOLIDWORKSは、このシフトをどうナビゲートするのでしょうか? 同社のGian Paolo Bassi氏は、デスクトップ版の提供は継続すると断言しています。一方で、顧客企業に対しては「市場の変化に応じて考えかたやスピードを考える必要がある」とも述べました。つまり、クラウドへの移行を検討せよ、ということでしょう。確かに、クラウドなら、場所や時間を問わないコラボレーションが円滑に進む――新型コロナウイルス感染症で、痛感した企業も多いでしょう。
筆者がこのイベントに参加して驚いたのは、SOLIDWORKSを使っているユーザーの愛です。コミュニティ作りがとても上手なのでしょう。同社は、専門学校など学生向けの取り組みも積極展開しています。
イベントで目を引いたのは、多彩な登壇者。Segwayの開発者で知られるDean Kamen氏は発明について語り、クラウドファンディングKickstarterのCharles Adler氏は、アイディアがある人が資金を獲ることが難しい社会に対抗するという起業精神を語りました。
実際にSOLIDWORKSを使っている例では、2018年の平昌パラリンピックで金と銀のふたつのメダルを獲得した、スノーボード選手Mike Schultz氏が登場しました。プロのスノースポーツ選手として活躍していた27歳の時、競技中の事故で左膝下を切断したSchultz氏は、義足の設計でSOLIDWORKSを利用しているそうです。chultz氏は、「義足でスポーツをしようという思いが、事故のショックを乗り越えるのに役立った」と語っていました。
そして、イギリスのGravity Industriesは、空飛ぶスーツを作るベンチャー企業です。SOLIDWORKSと3Dプリンターを利用し、すぐに作っては改善して……というサイクルをものづくりで行っているとのこと。ものづくりが少しずつ変化していることを実感しました。