安定的に運用するには、過剰適応ではなくナチュラルな適応を
藤原 前編では、マネジメントにおける考え方や短編ドラマの裏側などについてお伺いしました。後編では、ビジネス観などもお話いただけたらと思っています。というのも、僕から見た青木さんは、本当にビジネスマン。世の中が持っているクラシコムさんや青木さんに対するイメージとはすごくギャップがあるように感じています。すごくシビアにビジネスのことを考えられていますよね。
青木 おそらく、手段としてのビジネスは比較的しっかりしていると思います。ですが、何をやるかっていう部分で、嫌いなことでもやれる人、好き嫌いが少ない人っているじゃないですか。僕は性格的にそれができないので、なんとか嫌いじゃないことの範囲でやっていて、多分外から見ると、そういうところにエモさが感じられるのかもしれませんね。ですが、エモいことをビジネスにしようと思うと、最終的にはテクニックも必要になります。テクニックを軽視しているわけではないけれど、テクニックだけではない。そんな感じですかね。
あとは、個人的に、やらないっていう決断をするときがいちばん気持ちいい、というのもあります。
藤原 なんか、わかる気がします。
青木 清々しいんですよ、すごく。だから、やめる決断が結構僕は好きなんですよね。たとえばうちは、検索エンジンにちゃんと情報が伝わるように気をつけたり、一部コンテンツにおいてテーマが検索ニーズに応えられるかを意識したりということはあるのですが、検索順位の向上を目指したSEOらしいSEOはほとんどやったことがないんです。それでもかれこれ7年くらい、いわゆるSEOの権威と呼ばれるような人たちとのコミュニケーションは続けています。プラットフォームは何を考えているのか、その中でどうあるべきかとか、何をやってはいけないかとか、そういったことは彼らとのコミュニケーションで大いに学んでいますが、SEOを主要な集客施策として注力するかというと、今じゃないんだよな、と言ってもう7年くらい経ちます(笑)
藤原 でもそれって要は、たとえばグーグルのようなプラットフォーマーが「こういう世界にしていきたい」と思っている世界観にフィットしたようなコンテンツをきちんと投げ続けているから、その結果としてビジネスが育つというか。ハックしようとすると、延々にハックし続けなければいけなくなるじゃないですか。
青木 過剰適応しようとすると、揺り戻しが大きすぎて、フィジカルな強さが必要になるんですよ。こっちに向かって、わーっと努力をしていたけど、それがNGになって、さらにはマイナスになって、そこからまたやり直して、ということが、フィジカルの強さがある人はできると思うけど、僕らだと難しい。そうすると適度な適応というか、“過剰適応”ではなくて、“ナチュラルな適応”くらいにしておくと、反対にふられたときも、大きな影響は受けないので安定的にやれるんだと思います。
藤原 あるべきことをあるべきように、ちゃんと投げ続けているんだけれども、それを息を吸って吐くかのようにやれるかどうか。そんなようなことでしょうか。
青木 新規事業でも新しい取り組みでもそうですが、僕らには新しい取り組み三段階というものがあります。現場がのる、相手の期待値を超える、収支が合う。この順序で物事をやりましょうと社内では言っています。その入り口は、現場がのる、なので、ハック大好き人間のような人が入社してきたら、SEOもきっとやるんですよ。悪いことだけしなきゃいいよ、と言って。ですが、いまのところ、そういう人たちが入ってきにくいカルチャーだから、データドリブンとか、そういったことを喜んでやる人があまりいないんですよね。そうすると、きゃっきゃっ言いながら楽しく働けることを担保しようとすると、「データを見ないでできたほうがすごくない?」というテーマの持たせかたのほうが、合っているんです。会社がどういう人で構成されているかによると思いますが、今のうちの状況だとそうせざるを得ないっていうところもありますね。