ECと店舗の融合に向けて、今できること
鈴木 渡辺さんとよく話しているのですが、アダストリアの今後のマーケティング施策展開でひとつ重要なカギになりそうな「3.5」という数字がありますよね。
渡辺 はい。現在、自社ECの会員が約800万人いるのですが、平均すると1ユーザーあたり3.5ブランドをフォローしています。複数のブランドを組み合わせ、自分のスタイルに合わせて取り入れているお客様が多いんです。
鈴木 平均3.5ブランドということは、たとえば優良顧客の中で購買履歴が1ブランドしかない人に対しては、あと2.5ブランド分のクロスセルのチャンスがあると考えられます。当然その組み合わせは1人ひとり異なるわけで、そこにはパーソナライズのシナリオが効きそうです。
渡辺 そうですね。今後の取り組みの一環として、同梱リーフレットに掲載するブランドの組み合わせをお客様ごとに変えていくパーソナライズなども検討しています。
大木 ほかに、たとえばECと店舗の連携や融合などについて、今後の可能性をさらに広げていくためのポイントなどはありますか?
鈴木 アダストリアでは今、1,300店舗と800万ユーザーという規模のデータをお持ちで、店舗とECのデータがきちんとID統合されていますし、ECのデータを店舗で活用することもできていると思います。ただ、その逆がなかなか難しい。オフラインのデータをどう可視化していくかというところですね。
渡辺 難しいですね。店舗で起きていることをデータとして可視化するというのは、今まさに直面している課題です。ECに関しては購買のプロセスなどもすぐに可視化できるのですが、来店されているお客様の行動は見えていないのが現状です。
鈴木 ECは「来ただけで買わなかった人」も見えるんです。一方で、店舗では買わずにフラっと帰られてしまうとデータも何も残りません。買わなかった人が何を見ていたのか、何を試着したのか。それらも大事な情報です。まずは、店員の日報をベースにデータ化するだけでもよいと思います。それが集積されていくと、店舗はもちろんEC側にとっても有用なデータになるかもしれません。
デジタルとアナログを「一筆書き」する
本セッションではほかにも、デジタル×アナログの融合に取り組むうえで必要となる自社でのテストの進め方などについて言及。また、ECとリアルタイムに連携してカート落ちした顧客に最短24時間でDMを発送するディノス・セシールの「カート落ちDM」についても紹介。DMなどのアナログ施策を支える印刷技術がリアルタイムなパーソナライズに対応できるまでに進化しており、適切な設計さえできれば、デジタルとアナログを「一筆書き」でシームレスに活用したコミュニケーションを実現できることが示された。
ECや店舗を展開する事業者にとっても、デジタルとアナログ領域のコミュニケーションを支援するサービス提供者にとっても、多くのヒントが得られたのではないだろうか。