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DMで休眠顧客をECに呼び戻せるのか?デジタル×アナログ施策の現実解

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2018/11/13 11:00

 「ECzine Day 2018 KANSAI」では、マーケティングにおける「デジタルとアナログの融合」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。イーリスコミュニケーションズ Co-Founder/エグゼクティブ プロデューサー 鈴木睦夫氏とアダストリア WEB事業本部シニアマネージャー 渡辺元氏をスピーカーに迎え、博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 大木真吾氏がモデレーターを担当。当日のセッション内容から、アダストリアが日本郵便の協力のもと取り組んだ「休眠顧客向けDM施策」の実証実験を中心にお伝えする。

DM単体よりもEメールとの組み合わせ 
さらに、先にDMを送るのが効果的

 デジタルマーケティングの技術が急速に進歩する一方で、デジタル偏重型の戦略を見直し、アナログ的な手法を組み合わせた施策に取り組む企業が増えている。セッションの冒頭で大木氏は、その背景として、オンラインでは接触できない顧客が一定数存在すること、アナログ施策がその突破口になると考えられていることなどを挙げた。

 これを受けてイーリスコミュニケーションズの鈴木氏は次のように補足。

「Eメールのオプトイン率は平均30%程度で、開封率が20%程度。これらを掛け合わせた『リーチ率』はわずか6%です。90%以上に届いていないことになりますが、逆にそこを開拓できれば、それだけビジネス拡大の余地があるとも言えます」

イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブ プロデューサー 鈴木睦夫氏
イーリスコミュニケーションズ株式会社 Co-Founder/エグゼクティブ プロデューサー 鈴木睦夫氏

 鈴木氏は前職の日本郵便在籍時より「デジタルとアナログの融合」を訴え、ダイレクトメール(以下、DM)とEメールを組み合わせた事例の実証実験に取り組んできた。これまで10社以上の企業との実験を通じて、次のような気づきがあったという。

1)BtoB/BtoCのどちらにも共通する組み合せ効果

DMとEメールの組み合わせは、BtoB企業でもBtoC企業でも同様にリフトアップ効果がある。

2)DM単体ではなく組み合わせるのが重要

DM単体では効果が限定的。Eメールなどデジタルとの組み合わせのほうが良い結果が出る。

3)DMとEメール、先に送るのはDM

DMのほうがEメールよりも受け取った事実が記憶に残りやすく、DMのあとにフォローのEメールを送るとその開封率も上がる。さらに、DMからウェブサイトにアクセスするのが面倒な人をEメールで拾い上げる(リンクのクリックで直接アクセスできる)効果もある。ただし、Eメールだけで反応する層もいるので、現実的な落としどころとしては最初にコストの安いEメールを送り、反応しない人にはDMを、続けてフォローのEメールを送付するとよい。

アクセス率・注文率ともに、DM→Eメールの順に送付した場合にもっとも良い結果となった
アクセス率・注文率ともに、DM→Eメールの順に送付した場合にもっとも良い結果となった

4)パーソナライズはシナリオが命

1to1のパーソナライズはもちろん高い効果が期待できるが、コストも手間も増える。あくまでもシナリオ次第で必要に応じて取り組むべき。シナリオによっては、ある程度のセグメントに分けるだけで十分な効果が得られる場合もある。

5)クリエイティブよりタイミング

コミュニケーションの4大要素である「ターゲット(誰に)」「タイミング(いつ)」「クリエイティブ(どのように)」「オファー(何を)」の中でも、特にタイミングが重要。デジタルの技術でユーザーの状況変化を容易に捉えられるようになった今だからこそ、最適なタイミングでのコミュニケーションを実践することに注力すべき。

休眠顧客のアクティブ化を目的としたアダストリアのDM施策

アダストリア WEB事業本部シニアマネージャー 渡辺元氏
株式会社アダストリア WEB事業本部シニアマネージャー 渡辺元氏

 国内外で25ブランド、約1,300店舗を展開するファッションカジュアルチェーンのアダストリアも、鈴木氏が日本郵便で進めてきたデジタル×アナログ施策の実証実験に参画した1社だ。自社ECやモールECの運用支援、各ブランドのデジタル戦略支援など、通常はまさに「デジタル領域」を専門に担当するWEB事業本部シニアマネージャーの渡辺氏が中心となり、アナログ施策主体の実験に取り組んだ。

大木 どのような取り組みだったのか、実験の内容を教えてください。

渡辺 休眠顧客のアクティブ化を目的として、DMというアナログ施策がその有効な手段となり得るのかを検証しました。休眠顧客の定義としては、直近1年間でECおよび店舗での購入がないこと、かつEメールの受信許可をされていないことです。お客様の年齢層が幅広いので、今回の実験ではターゲットを10~20代のヤング層と30~40代のアッパー層のふたつにセグメントしています。

各層にマッチしたブランドの訴求とECサイト誘導用のQRコード、オファーとして「5,000円以上の購入で500円引き」のクーポンを付けたDMをターゲットに送付して、約1ヵ月間でどれだけの方がアクションされるか計測しました。

アダストリアが休眠顧客に送付したDMの内容
アダストリアが休眠顧客に送付したDMの内容

DMを送付した休眠顧客のアクティブ率は約2倍に

渡辺 集計の結果、DMからの購入者数は全体の約2%で、DMを送付していない層と比較したアクティブ率は約2倍にのぼることがわかりました。今回の取り組みで、オンラインで接触できなかったお客様に対しても、DMを活用したアプローチによってアクションを起こしてもらうきっかけを作れることがわかったのは大きな収穫です。

DMは休眠顧客を起こすきっかけとなったが、継続購入への導線など今後の課題も
DMは休眠顧客を起こすきっかけとなったが、継続購入への導線など今後の課題も

ただ、休眠顧客を本当の意味で起こすのはかなり難しく、単発購入で終わってしまってはコストも回収できません。今後の課題として、一度起こした休眠顧客をアクティブな顧客に育て上げていくために、継続購入につなげるシナリオを準備する必要があります。また、ターゲットやタイミング、訴求内容を変えてリトライして検証することで、ROIの面でもより有効なDM施策が実現できるのではないかと考えています。

鈴木 DMは1通の単価が高いので、特に新規獲得や休眠顧客引き上げなどでは一発でROIを出すのが難しいんです。優良顧客へのクロスセルやアップセル施策などで使うと、より直接的な効果が出やすいかもしれません。いずれにしても1回の購入だけでは判断できず、LTVを長い目で見ていく必要がありますね。

ECと店舗の融合に向けて、今できること

鈴木 渡辺さんとよく話しているのですが、アダストリアの今後のマーケティング施策展開でひとつ重要なカギになりそうな「3.5」という数字がありますよね。

渡辺 はい。現在、自社ECの会員が約800万人いるのですが、平均すると1ユーザーあたり3.5ブランドをフォローしています。複数のブランドを組み合わせ、自分のスタイルに合わせて取り入れているお客様が多いんです。

鈴木 平均3.5ブランドということは、たとえば優良顧客の中で購買履歴が1ブランドしかない人に対しては、あと2.5ブランド分のクロスセルのチャンスがあると考えられます。当然その組み合わせは1人ひとり異なるわけで、そこにはパーソナライズのシナリオが効きそうです。

渡辺 そうですね。今後の取り組みの一環として、同梱リーフレットに掲載するブランドの組み合わせをお客様ごとに変えていくパーソナライズなども検討しています。

これからの取り組みとして同梱リーフレットのパーソナライズなども検討
これからの取り組みとして同梱リーフレットのパーソナライズなども検討

大木 ほかに、たとえばECと店舗の連携や融合などについて、今後の可能性をさらに広げていくためのポイントなどはありますか?

鈴木 アダストリアでは今、1,300店舗と800万ユーザーという規模のデータをお持ちで、店舗とECのデータがきちんとID統合されていますし、ECのデータを店舗で活用することもできていると思います。ただ、その逆がなかなか難しい。オフラインのデータをどう可視化していくかというところですね。

渡辺 難しいですね。店舗で起きていることをデータとして可視化するというのは、今まさに直面している課題です。ECに関しては購買のプロセスなどもすぐに可視化できるのですが、来店されているお客様の行動は見えていないのが現状です。

鈴木 ECは「来ただけで買わなかった人」も見えるんです。一方で、店舗では買わずにフラっと帰られてしまうとデータも何も残りません。買わなかった人が何を見ていたのか、何を試着したのか。それらも大事な情報です。まずは、店員の日報をベースにデータ化するだけでもよいと思います。それが集積されていくと、店舗はもちろんEC側にとっても有用なデータになるかもしれません。

デジタルとアナログを「一筆書き」する

 本セッションではほかにも、デジタル×アナログの融合に取り組むうえで必要となる自社でのテストの進め方などについて言及。また、ECとリアルタイムに連携してカート落ちした顧客に最短24時間でDMを発送するディノス・セシールの「カート落ちDM」についても紹介。DMなどのアナログ施策を支える印刷技術がリアルタイムなパーソナライズに対応できるまでに進化しており、適切な設計さえできれば、デジタルとアナログを「一筆書き」でシームレスに活用したコミュニケーションを実現できることが示された。

 ECや店舗を展開する事業者にとっても、デジタルとアナログ領域のコミュニケーションを支援するサービス提供者にとっても、多くのヒントが得られたのではないだろうか。

デジタルとアナログを一筆書きできる環境が整いつつある
デジタルとアナログを一筆書きできる環境が整いつつある
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