FBA開始に2年かかった EC見直しで見えた大きな課題
──実際にEC事業に力を入れたことで、見えてきた課題はありますか。
中島 とにかく課題ばかりです。今まで、Amazonの講習を受けて自社なりにSEO対策をしたり、商品ページを作ったりしていました。商品ページは良い出来だと満足していたのが正直なところです。それを社外から客観的に見てもらって、多くの改善が必要だとわかりました。
たとえば、それまで「藤栄」の商標登録をしていなかったのです。Amazonでブランドストアページを作るには、商標登録が必要となります。また、FBA(フルフィルメント by Amazon)の活用も、2024年11月にやっと始めました。準備には2年かかりましたね。Amazonの仕組みを自社のインフラに合わせようとしていたからです。
事業を80年続けてこられたのは、先輩社員たちが創意工夫してくれていたからだと思います。本当にありがたいことです。一方で、何も変わらないままでも事業が進んでいってしまう状態だったのも事実です。変化に対応できる柔軟な体制が必要だと感じました。
──それでもパートナーの力を借りながら、改善を続けています。どんな成果が得られているのでしょうか。
中島 まだまだ目標には足りませんが、売上はもちろん上がりました。それ以上に大きかったのは、社内の認識の変化です。Amazonが強力な販売チャネルであると理解してもらえるようになりました。営業活動にも役立っています。
世界規模で見ると、EC市場はもっともっと進化するでしょう。将来的に、その中心にいられるブランドになりたいです。
ただ、いえることはEC運営をどれだけ見直しても、商品力がなければ売れないということです。これまでの取引やモノづくりから得たノウハウを生かして、魅力的な商品を開発し続けなければなりません。

──ヒット商品も生まれている今、商品開発は藤栄の強みではないでしょうか。アイデアの源泉を教えてください。
中島 誰にでも響く商品を目指すのではなく、“一点突破型の開発”と“自己実現型の開発”、具体的には「これ一つあればこんな豊かな暮らしが手に入る」ことを大切にしています。「ほんとうにすべらないお箸」は、非常にわかりやすい例です。
同商品は、小売店の店頭でこんにゃくと一緒に置いてもらっています。たまたま通りかかった男性が、どれだけすべらないのか試すとしますよね。そのとき、彼には何が思い浮かぶでしょうか。
うちの子どもは3歳だから、そろそろお箸デビューか。手の力が弱ってきた両親へのギフトに良いかもしれない。そんなことを考えながら商品を購入した帰り道、スーパーでこんにゃくもついでに買うはずです。店頭で見たことを家族の前で実践しようと、帰りながらわくわくしていると想像できます。
私たちは、そこまで具体的なストーリーを想像できる商品を作っています。影響力は、このお箸だけで月に2,000万円を売り上げる小売店もあるほどです。実店舗でプレゼンし、メディアで取り上げられると、EC側でも大きな反響を得られます。