TSI岸氏などが登壇 Klaviyo導入・未導入企業6社がチャネル戦略について意見交換
2024年よりKlaviyo公式イベントとしてR6Bが開催している「Connect in Tokyo about Klaviyo」。2回目となる今回はKlaviyoを導入済み、もしくは興味関心があるEC事業者約130名が集まり、Klaviyoを使ったECマーケティングの実践術やアップデート情報の共有などが行われた。

今回のイベントの目玉は、Klaviyo導入企業と未導入企業が意見を交わすパネルディスカッションだ。Klaviyoの導入状況やブランドの成長フェーズもそれぞれ異なる次の6社が、メールを中心とするOne to Oneアプローチの現状や理想図について、質問に答えながら議論を進めた。
「Connect in Tokyo about Klaviyo vol.2」パネルディスカッション登壇者
- 株式会社βace(Minimal - Bean to Bar Chocolate -) ECチームリーダー 兒嶋仁視氏
- 株式会社土屋鞄製造所 グロースマーケティング部 CRO担当 持丸加奈子氏
- 株式会社アルビオン 国内推販グループ長 榊原隆之氏 ※Klaviyo未導入ブランドあり
- 株式会社TSI EC事業統括部 副統括部長 兼 オペレーション部長 岸武洋氏 ※Klaviyo未導入
- 株式会社イオンスポーツ ウェブチームリーダー 山﨑勇志氏
- 株式会社ヘラルボニー マーケティング&オンラインセールスグループ 北村茉里映氏
セッションの冒頭にて、各社はCRMツール導入状況を紹介。Minimal - Bean to Bar Chocolate -(以下、Minimal)、土屋鞄製造所、イオンスポーツ、ヘラルボニーはKlaviyoを採択しているが、アルビオンでは「ANNA SUI」でKlaviyo、「PAUL&JOE」でDotdigitalを活用。2025年2月にグループ内の約30ブランドを統合し、公式オンラインストア「mix.tokyo」をリニューアルオープンしたTSIは、KARTEをサイトリニューアル前から継続利用しているという。
「立ち上げ当初は全配信のみでメールの設計をしており、『PAUL&JOE』ではShopifyメールを、『ANNA SUI』ではMailchimpを使っていました。お客様の数が増え、アプローチのバリエーションを増やしたいと考えた際にKlaviyoに乗り換え、『ANNA SUI』では今も活用しています。『PAUL&JOE』はさらなる成長のために、最近Dotdigitalに乗り換えました。
私はブランドごとに最適化した体験を提供すべきと考え、常に良いツールを追い求めています。『PAUL&JOE』はパーソナライズをより重視したいフェーズに入ったため、Klaviyoよりもきめ細やかなアプローチができ、メール到達率も高いDotdigitalを選びました。ただし、Klaviyoでも十分なアプローチは可能だと思います」(アルビオン 榊原氏)

「TSIグループは、多くのブランドとチャネルを抱えているため、ウェブ接客、メール、LINE、広告などあらゆるチャネルを一元管理できるツールを求めていました。mix.tokyoのリニューアル時にツールの見直しを行い、Klaviyoも候補に挙がりましたが、KARTEでできるチャネル横断型の仕掛けや運用移行のコストを踏まえた結果、乗り換えはせずに今に至ります」(TSI 岸氏)

販促強化のためMA運用を分業化した土屋鞄製造所 イオンスポーツ・ヘラルボニーの体制は?
続いて、メール/MAの運用実態について各社の回答が紹介された。顧客の嗜好が細分化し、パーソナライズされたアプローチが求められる一方でEC担当者はタスクが多く、「思うようなアプローチが実践できていない」と悩む方も多いのではないだろうか。ここでは、課題と向き合う各社の工夫が垣間見える回答を得られた。

「私は、土屋鞄製造所で大人用の鞄を対象に、CRO(コンバージョン率最適化)とCRMを担当しています。現在、サービス機能の開発やサイト改善、CRM施策の企画・推進はグロースマーケティング部が主導する体制です。一方、事業部は日々の販促や在庫管理などオペレーションに特化することで、より効率的な運営が可能になりました」(土屋鞄製造所 持丸氏)

「イオンスポーツが運営する『ZEROFIT公式オンラインストア』では、少人数体制のため、内容の決定から運用・チェックまでを一貫して担当しております。こう伝えると膨大な作業に見えるかもしれませんが、Klaviyoで型を決めればルーティン化が可能です。今は分析や振り返りをする曜日・時間を確保し、そのタイミングで『いつ』『誰に』『何を配信するか』を決めてメール作成・配信設定を実施。翌週に結果を踏まえて次の配信に生かすフローで回しています。
最初は、英語表示に抵抗感があり使い方がわからず全配信に終始していましたが、今回一緒に登壇している榊原さんにレクチャーいただいてからはコツをつかんで、やりたい施策を形にできるようになりました。慣れれば直感的に使えるので、Klaviyoは非常に便利なツールだと思います」(イオンスポーツ 山﨑氏)

ヘラルボニーでは、ECサイトやCSを含むオンライン上の顧客接点すべてを北村氏らのチームが手がけており、業務委託のライターなどの手を借りながらメール/MA推進を行っているとのこと。ブランドの根幹部分にも関わる企画やスケジュール策定、数値の振り返りは北村氏が担い、アンケートなどで顧客の生の声も聞きながら、配信頻度や訴求内容の磨き込みを続けているという。
店頭接客にヒントを得て顧客からの申し出が0件に ANNA SUIが配信した“あるシナリオ”とは
CRM施策をより効率的かつ効果的なものにするには、イオンスポーツの山﨑氏が語ったようなルーティン化や、ヘラルボニーの北村氏が実践する配信頻度・内容の磨き込みも欠かせない。ここでは、Klaviyoを使ってセグメントやシナリオをいくつ設定しているか、PDCAサイクルを回す中で効果があった取り組みなどについて触れられた。
「2021年に入社した当初から、MinimalではKlaviyoが導入されていましたが、1年超で100個以上のセグメントを作成しました。意図的に増やしたわけではなく、送りたいコンテンツや購買履歴、サブスク入会有無などの会員ステータス、Shopifyの顧客タグなどを掛け合わせていったらこうなりましたね。ただし、頻繁に使っているのは10個程度です。
シナリオは稼働中のものが20個ほどで、F2転換に注力しています。『購入後に同梱物に反応した』などのトリガーを起点に設計したステップメールが、効果を上げています」(Minimal 兒嶋氏)

アルビオンの榊原氏は、Klaviyo導入を決める前に作成したいセグメントやシナリオをシミュレーションし、利用開始初日に100個弱のセグメント、20個程度のシナリオを作成。店頭活動をメール/MAで再現することを目指し、配送先の都道府県や誕生月、購入商品といったセグメントごとに購入後の実店舗送客メール、購入商品の使い方などのフォローメールを送信し、着実な成果も得られているそうだ。
「『ANNA SUI』で販売している『ヘアー ブラッシュ』と呼ばれるヘアブラシは、通気口として穴が設けられているのですが、これを不良品とみなしてEC購入者から返品・交換のお申し出を受けることが多く、課題となっていました。
そこで、店頭での補足説明を生かし、Klaviyoから購入者に商品特性と使用方法をお伝えするメールを自動プログラムで送り始めたところ、問い合わせが0件になりました。この施策の手応えから、ラッピングボックス購入者へ組み立て方のレクチャー動画を送るシナリオも作り、同じような成果を得ています」(アルビオン 榊原氏)
Minimalが実験 広告効率を高めるKlaviyoセグメント配信の工夫
今回のイベントでは、Klaviyo導入のメリットだけでなく、導入初期の注意点や未導入社から見た懸念点などについても言及。TSIの岸氏は「大企業がCRMツールを導入する際は、リアルな接点を含むマルチチャネル対応が大前提」と強調した上で、配信時のタイムラグの少なさといった安定性、英語力などスキルのばらつきがある大規模組織で属人化しないよう、日本語でのサポート体制が構築される未来に期待を寄せた。
こうした声を受け、土屋鞄製造所の持丸氏は「英語に苦手意識があっても、『Google翻訳』などを使えば、ある程度理解はできる」と補足。さらにMinimalの兒嶋氏から、直感的なUI/UXについて次のような感想が述べられた。
「Shopify上で閲覧・購買されている商品のTOP10を自動生成できる機能は、非常に便利です。これをテンプレート化すれば、ドラッグ&ドロップでメールが作れるようになり、5分もかからずにレコメンドメールが作成できます。
また、Metaの広告と連携したセグメント作成ができるのも、当社としてはメリットに感じています。サブスク加入者に広告が表示されないようにするなど、成果に違いが出るかまさにA/Bテストを実施しているところです。今後は管理画面の日本語対応や、LINE公式アカウントとの連携にも期待しています」(Minimal 兒嶋氏)
「LINE公式アカウントとの連携は、私もぜひ実現してほしいと思っています。ヘラルボニーではまだ全配信しか行っていませんが、既にタイトルのA/Bテストの成果を直感的なUIで見られるなど、データ分析のしやすさや施策の円滑化といったKlaviyoの利点を享受できています。近日中にシナリオ配信も実施する予定なので、結果が楽しみです」(ヘラルボニー 北村氏)

LINE連携は、土屋鞄製造所の持丸氏も期待を寄せているという。Klaviyoは既にWhatsAppとの連携を実現しており、ヨーロッパや東南アジアなどではKlaviyo×メッセージングアプリの可能性が広がりつつある。日本での普及を進めるR6Bとしても、LINE連携は優先度高く本国にリクエストしているとのことで「今後の展開に注目してほしい」と同社の代表取締役 師橋淳一氏は語った。
なお、パネルセッションの最後には質疑応答の時間が設けられ、Klaviyoをはじめとするメール/MA活用やCRM推進の疑問点、不安点について、参加者と登壇者で意見交換が実施された。ここではその一部を紹介する。
Q. Klaviyoを導入したが、まだ「活用できて楽しい」の域に達していない。どうすれば使い倒せるか?
「Klaviyoの独自用語などわからないことがあるかもしれませんが、壁にぶつかったらAIに聞いてみると割と解決します。私はマーケターとして『仮説が当たって売上が上がればうれしい』をモチベーションにしているので、良い意味でゲーム感覚をもって取り組んでみるのも良いと思います」(土屋鞄製造所 持丸氏)
「『お客様がどのタイミングでメールが来たら嬉しいか』を想像しながら、とにかく手を動かしてみてはいかがでしょうか。それで実際に売上が上がると、『これが当たるならあれもやってみよう』とアイデアが湧いてくるはずです」(イオンスポーツ 山﨑氏)
Q. セグメントやシナリオを稼働させ始めたら、離脱防止策に目がいくようになった。何か対策はしているか?
「『いらないメール』と思われないよう、配信頻度×質のチューニングは常に行っています。購読解除数を月次で追い、『ブランドらしくないふるまいをしていないか』など振り返りながら、シナリオを磨き込んでみてはどうでしょうか」(Minimal 兒嶋氏)
「実店舗も展開している当社の場合、メルマガからの離脱=ブランドからの離脱でないケースが多く散見されます。一つのチャネルの結果にとらわれずカスタマージャーニー全体で見て、他チャネルでエンゲージが高いのであればそれで良しと判断するのも、ロイヤルユーザーを正しく把握する上では必要な行動です。もちろん、こうした定義づけがきちんとできるよう、顧客IDベースでの分析やCDPの構築も欠かせません」(TSI 岸氏)
Q. 事業フェーズや会員数など、Klaviyoを導入する目安を知りたい。
「セグメント配信など、Klaviyoの効果を存分に体感するには、5,000人から1万人程度の会員数は必要だと思います」(土屋鞄製造所 持丸氏)
「イオンスポーツでも、1万人超えが見えてきたタイミングで導入しました」(イオンスポーツ 山﨑氏)
「熱量の高い顧客だけでなく、ライトな層にも届き始め、メッセージをそれぞれに向けて変えたいと思う目安が1万人なのは、私も共感します。ブランドの成長フェーズとしても、この数字は一つのターニングポイントになるのではないでしょうか。セグメントを切って、ファンにはより好きになってもらう工夫を、ライトな層にはファンになってもらうためのアプローチをKlaviyoで行っていくと良いと思います」(ヘラルボニー 北村氏)
Klaviyo×他ツールで広がる可能性 顧客情報管理がポイントか
今回のイベントでは、Klaviyoのポテンシャルをさらに高めるため、他ツールやサービスとの連携法についてもアドバイスがなされた。
連携例
- 「チャネルトーク」(株式会社Channel Corporation):Klaviyo経由でECサイトに遷移した顧客へ専用ポップアップを配信し、セグメントごとにフィットするコミュニケーションを実現。Klaviyoで配信したメール内で完結するチャット導線も設置できるため、顧客が触れたチャネルからそのまま問い合わせに進める快適な体験提供も可能となっている。
- 「Appify」「VIP」(株式会社Stack):SDKを利用し、AppifyとKlaviyoを連携させることで会員ステータスに合ったプッシュ通知の出し分けを実現。Shopify FlowとKlaviyoのセグメント・シナリオをつなぎ合わせれば、ポイントの付与・失効通知などといった購買意欲喚起につながるアプローチも可能となる。
- 「Omni Hub」「どこポイ」「App Unity IDP」など(フィードフォースグループ):店舗・ECサイト・コミュニティ・ポイ活など複数チャネルをまたいだ顧客行動を一元管理し、Klaviyoと連携してメール配信・プッシュ通知を実現。Shopifyを使ったCDP構築を叶えられる。
この他にも、株式会社アパレルウェブは自社EC内でのRaaS(Resale as a Service:循環型eコマース)フロー確立、BtoB-EC展開、Shopify POSを活用したOMO施策などを含めたShopifyでの統合的体験構築の有効性を紹介。AnyMind Group株式会社からは、新たに提供開始したAIエージェント導入・運用特化型ソリューション「AnyAI Workflow」の可能性が語られ、eコマースの拡張を目指すマーチャントにとって有益な情報が提供される1日となった。
