オンラインに閉じないSNS活用 UGCの総量を増やす伊勢半の工夫とは
伊勢半では、ブランドや商品の認知度向上、売上拡大を目的に、SNSを使った積極的な情報発信も行っている。フォロワー数増加の鉄板施策といえるプレゼントキャンペーンや、インフルエンサーとのリレーション構築はもちろんながら、近年重視しているのはやはり「UGCの総量を増やすこと」だと小西氏はいう。
「SNS施策については広報宣伝部と協力し、オンライン送客だけでなく店頭送客にも貢献できるような情報発信を意識しています。
私は販路でいえばECチャネルの担当をしていますが、伊勢半の売上の多くは、今も街中のドラッグストアやバラエティショップなどといった小売店から生まれたものです。手に取りやすい場所で顧客に買っていただければ結果的に自社の売上も増えるので、『買いたい』と思っていただく、店頭で思い出していただくことを目的に、リーチやUGCを増やせるようなアプローチとKPI設計を行っています」
SNS運用については、「ブランドやターゲットによって主軸となるプラットフォーム、アプローチはやはり異なる」と語る小西氏。既存顧客へのコミュニケーションはアカウント運用を積極的に行うXやInstagramで、新規顧客獲得はTikTokやYouTubeの広告を使って、といったように目的別に施策を切り分け、裾野を広げるための努力は欠かせない。
「広告やオーガニック投稿の数値は常に広報宣伝部と共有し、反響の大きなものは露出を強化する、似たような施策をさらに展開してみるなど、試行錯誤を続けています」
自社ECでしかできないチャレンジで存在感を高めたい
そんな小西氏は、EC販路や広告・SNS施策を通じて伊勢半をどう成長させていきたいのだろうか。今後の展望について聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「もちろん、商品に惹かれて選んでいただけるのもありがたいことですが、やはりまだヒロインメイクやヘビーローテーションといったブランドと、伊勢半というメーカーが結びついていない方がほとんどです。
そのため、自社ECでは伊勢半の商品をブランドやカテゴリーの垣根を越えて知ってもらい、メイクの幅を広げるきっかけを与えたり、提案を行ったりする場にしていきたいと考えています。そうすれば、きっと伊勢半グループ全体の企業価値向上にもつながるはずです」
また、MNを展開して小西氏は改めて「ECサイトはスモールスタートする上で良い場であると気づけた」と続ける。
「たとえば、MNではこれまでの伊勢半にない個性的な色もラインアップに加えています。店頭では棚数の制限もあり、こうしたチャレンジングな商品になかなかコストを割きにくい部分もありますが、実際にECサイト上での売れ行きを見ると支持する層を可視化できます。すると、『限定色として出す』『少量のロットで生産する』など、施策の選択肢を増やすことが可能です」
顧客の声を踏まえたメーカーECならではの展開として、伊勢半では2018年に一定の支持を得ながらも販売を終了した「スージー エキスパート」のルースパウダーを、2024年にISEHAN online store限定で復活させている。
「この再販は、同商品のファンだった方々から大きな反響を得ました。メーカーが自社ECを展開する際、歴史があるほど既存の小売販路との棲み分けなど考慮しなければならない点があるのも事実ですが、小売での展開が難しいアプローチで売上や存在感を高めていくのは可能だと思っています。MNと同じ2021年に展開を始めたEC専売ブランド『ISEHAN lab.』も同様です。
伊勢半では、今後こうした自社ECにしかない商品の売上比率を高めるため、広告投資も積極的に行う予定です。既存販路と取り合いをするのではなく、データ活用ができるオンライン、出会いを増やせる店舗などそれぞれの長所や良さを生かしながら、200周年以降も時代に合わせた進化を続けていきます」