購入を「いいこと」に変える支援型消費 今後求められるのは○○○
河野(博報堂買物研究所) 最後に紹介するeコマース特有の伸びを見せていたBOOSTタイプのツボ「利他・社会性」は、他者や社会“にも”いいことができて買いたくなる性質を表すツボです。具体的には、買物を通した環境や社会への貢献や、生産者・販売者をサポートできる買物などが当てはまります。このツボは、どういった背景で伸びたのでしょうか?
増田(TBWA HAKUHODO) 2020年、新型コロナウイルス感染症の流行時に、飲食店や生産者がSNSを通して直接、困りごとや悩みの声を発信していました。これにより、多くの意見が可視化され、実際に困っている人を目の当たりにしたことで、生活者の支援したい気持ちが増したと考えられます。
こうした支援型の消費は、投稿が拡散されるだけでなく、実際に購入する生活者も生まれることで大きなトレンドとなりました。こうした消費は、今では一般的になりつつありますが、今後も地震や災害などが発生した際に活発になると予想されます。今後は、ECサイトとSNSをより密に連動させながら、一時的ではなく、継続的なつながりが生み出せるような仕組みが求められるかもしれません。
どのチャネルでも重要な「ストーリー」と「偏愛」 熱狂を生む秘訣は?
橘田(TBWA HAKUHODO) 続いて、eコマースでもリアルでも共通するツボとして挙げられていた「偏愛性」「ストーリー性」についてお話しできればと思います。
そもそも、この二つのツボが伸長した背景には「生活者のSNSの使い方」があると考えられます。インターネットやSNSをよく活用する生活者は、複数のSNSアカウントを使い分けながらコミュニティに属し、多様なつながりを生み出しています。オンライン上で同じ「好き」をもつ人同士がつながり、コミュニティ内で商品紹介やお勧めをし合う文化がこれらのツボの伸長に貢献する。これは自然な流れでしょう。
橘田(TBWA HAKUHODO) 「ストーリー性」のわかりやすい例は、あるコスメブランドの没入体験です。ブランドの世界観の訴求に加え、中には何万通りの組み合わせから自身の美しさを探求できるようなサービスなども登場しており、ブランドのストーリーの一部になれるような工夫が施されています。このほかにも、メイクにまつわる分析から購入に至るまでの様々な体験をバーチャル空間上で楽しめる、新たな体験型ECサイトなども生まれていますよね。
既にSNS上にはメタバース体験に親しむ生活者も存在しており、こうした最新技術を取り入れたブランド体験は今後さらに加速するでしょう。このような取り組みは、従来はリアル店舗やポップアップストアが出店されているエリアでしか提供できなかった体験をどこでも実現可能にしてくれるため、非常に大きな強みがあるといえます。
また、コロナ禍を経てプロダクトの裏側にある“物語”を語る手法もよく見られるようになりました。ECサイトを「ただ購入する場」ではなく、「新しい何か」と出会うことをコンセプトとした「つくり手が見える場」とする取り組みです。SNSの普及により、こうした事例は日常的なコミュニケーションの一環として増えているようにも感じられます。
“物語”を語る方法は、ブランドによって様々です。印象的な例のひとつに、シニア層が終活で処分する衣料品を時代背景や想いが映し出された“物語”と捉え直したアパレルショップがあります。ごく一部のコレクターや古着ファン以外には「古着=古臭い、お下がり、汚い」といったネガティブなイメージをもつ人もいるかもしれませんが、このブランドは古着の持つ時代背景や世界観を美しく描くことで、服としての魅力を超えた購買体験の提供に成功しました。これも現代らしい買物欲を刺激する方法だといえます。
河野(博報堂買物研究所) 「ストーリー性」は、コロナ禍を経てブランドや売場の「背景」や「らしさ」が生活者に響き、伸長してきました。技術の進化とともにバーチャル空間での取り組みが活発化し、住む場所による格差が縮まれば、これまでは首都圏など限られた場所でしか体感できなかった没入体験やそれらに対するニーズが地方にも広がります。すると「ストーリー性」はさらに重要になるはずです。
では、もう一つのツボ、「買物を通じて“好き“の想いを表現できる」という意味の「偏愛性」について、ソーシャルリスニングから得た発見とEC担当者へのヒントを教えてください。
増田(TBWA HAKUHODO) 「偏愛性」に関するヒントをひもとくと、大きく二つに分類できそうです。一つ目は「企業・ブランドへの偏愛を高める」こと。たとえニッチでも、熱量の高いファンがいるブランドや商品はSNSで話題になり、そこからテレビなどで取り上げられ、爆発的に売れることがあります。特にSNSでは、新しいモノや発見を得られるトピックが拡散されやすいため、熱量の高いファンの声にこうした要素が含まれていると、ファン以外にも口コミとして広がっていきます。
また、企業がユーザーのニーズや要望に応えた商品を実際につくる取り組みも「これが欲しかった!」といった称賛や、ブランドエンゲージメントの醸成につなげられるため、有効です。
二つ目のヒントは、「ユーザーの偏愛を活用する」ことです。最近はもう当たり前といえる響きにまでなった「推し活」文脈でも、ECサイト上で自分の推し色を選び、名前を入れるなどといったカスタマイズ体験が主流になっています。元々は手づくりをしていたアイテムが商品化され、高いクオリティーで誰でも手に取れるようになったため、ファンコミュニティを中心にSNSでシェアされ、反響を得ているといった具合です。
また、「ユーザーの偏愛に応える」という意味では、イラストレーターやインフルエンサー自身がオリジナルグッズをつくるケースも増えてきました。グッズを販売し、手に取ってもらうことで日常生活内での接点が増え、エンゲージメントがさらに高まっていきます。発信者とそれを応援するフォロワーの関係構築は「購入して応援する」形に進化しつつあるといえるでしょう。
増田(TBWA HAKUHODO) なお、昨今はこの二つのヒントをうまく取り入れたコンテンツ同士のコラボレーションも増えています。話題のコンテンツとのコラボレーションは、そのファンをすぐにECサイトへ呼び込めるため効果的ではありますが、ファンの感動につながる購買体験を生み出すには、文脈や背景の理解が必須です。「ファンはなぜそのコンテンツを偏愛しているのか?」といった理由を考え、その上で商品化をする。そうすれば、関わる全員にとってプラスなコラボレーションとなるに違いありません。