失敗しないためならネタバレもOK? 若者のリスク回避行動とは
河野(博報堂買物研究所) まずは、増田さんの視点からeコマース特有の項目とeコマース+リアル共通の項目を見た感想を教えてください。
増田(TBWA HAKUHODO) 生活者は、ECサイトで購入する際に失敗しないよう、SNSやECサイト内で口コミを確認したり、信頼できるECサイトから購入したりといったリスク回避の行動を当たり前のように取っています。「売っている人や商品を実際に見られるか」というeコマースとリアルの大きな違いが、わかりやすく結果に表れたと思いました。
また、KEEPタイプ(信頼感、損失回避)だけでなく、BOOSTタイプ(利他・社会性、限定感、驚愕・非日常)のツボも伸びていたことから、どちらか一方だけでなく、買物欲を維持しながらさらに盛り上げていくアプローチを考えることも必要だといえます。
河野(博報堂買物研究所) eコマース特有の伸びを見せていたKEEPタイプの「信頼感」は、買物自体に不安はなく、安心・信頼できる感覚を表したツボ、「損失回避」は買物での失敗や損を回避したいと思うツボを指します。これらは、eコマースの「らしさ」が表れたキーワードだと感じました。
実際、「実物を見ずにECサイトで買って失敗した」といった声は多数存在します。インタビュー調査時には、多くの生活者から「失敗したくないから工夫をする」というキーワードが出てきました。たとえば「失敗しないために、評価の低い口コミを読んで、自分が共感できるか確かめる」「複数サイトを比較して、損をしないようにしている」といった具合です。
「信頼感」が伸びているのも、失敗したくない気持ちの一種だと考えられます。生活者の工夫としては、「一度買ったことのあるECサイトや出品者から買う」「友人からの勧めなど信頼できる情報を頼りにする」といった意見が出ていました。ちなみに、橘田さんの視点から「損失回避」や「信頼感」についてのSNSでの動向をお聞きしたいのですが、何か購買行動に関連する特徴はあるのでしょうか?
橘田(TBWA HAKUHODO) 若者に関していえば、彼らは自分に合ったモノや好みのモノを見つけるためにSNS上の様々なコンテンツを視聴しています。そもそも彼らは「時間を効率的に活用したい」という気持ちが強い世代です。そのため、幅広いコンテンツをダイジェストのように短時間で閲覧している傾向にあるのですが、「ハズレを引きたくない」という心理からか、概要を事前に把握できる「ネタバレ消費」も当たり前になりつつあります。
こうした背景を読み解くと、今の若者は友人やインフルエンサーなど「信頼感」をもてる人から情報を得て、なるべく「損失回避」するためのコミュニケーションを活発に行っていることがわかります。これは、コンテンツの接触頻度や量の増加に起因しますが、結果的に話題量の増加にもつながっていると考えられます。
購入を後押しするメッセージ 優柔不断な人にこそ「限定感」は刺さるかも
河野(博報堂買物研究所) 次に、eコマース特有の伸びを見せていたBOOSTタイプのツボ、「利他・社会性」「限定感」「驚愕・非日常」について話を進めていきます。一つ目に紹介するのは、すぐに買物行動に移すべき理由があると「買いたい」という感覚になるツボを言語化した「限定感」についてです。
eコマース、リアルを問わず、「限定」「今買うべき」といったメッセージを見て、衝動的に買いたい気持ちが高まった経験をもつ人は多いのではないでしょうか。「衝動的な買物」というと「本当はそこまで欲しくなかったが、その場の勢いで買ってしまった」といった後悔につながるケースもありますが、中には「迷っていた商品を購入する後押しになった」というように、プラスの気持ちや行動をもたらすこともあります。
こうした心理を捉えると、生活者へ良い買物体験を提供するには「検討に時間がかかりすぎてしまう人」を対象に、限定感を訴求するのも有効な術の一つだといえるでしょう。増田さんの視点から「限定感」について見えていることはありますか?
増田(TBWA HAKUHODO) 「限定感」について、SNSで特に多く見られたのは「お得に買い物をする方法」をシェアし合う様子です。特にECサイトでセールが始まる際には、買い方のコツやこのタイミングで買うべきお勧め商品についての発信が積極的に行われています。そのため「特に買うつもりはなかったが、セールだから買ってしまった」「安かったから手にとった」といった意見も出ていました。
価格以外で感じられる「限定感」としては、商品に付随するサービスが購入の後押しになる例がありました。eコマースの発展により、名入れやオリジナルの写真を使えるなど、自分用にカスタマイズされた商品の提供や購入がしやすくなったのも大きな変化です。「限定感」の訴求は価格だけでなく、こうしたサービスや「EC限定商品」の提供でもかなえられます。今後も、こうした角度から買物欲を刺激する流れは続くと考えています。
なお、期待を上回る体験や特徴的な商品に驚いて非日常感を覚えることを表したツボ「驚愕・非日常」について、SNS上ではECサイトやフリマアプリでなかなか出会えなかった商品を発見、購入できた際の驚愕の声が多く見られました。一方で、前出のようにECサイトで見られる「自分の想像していた商品と大きさや色が異なっていた」といったネガティブな声も可視化されています。
河野(博報堂買物研究所) 購入の場が多様化し、商品を気軽に探しやすくなったことで見つける驚きの機会が増え、「驚愕・非日常」のツボが伸びたのではないかと考えられます。また、増田さんが挙げたネガティブな声は、前出の「損失回避」でのインサイトとも共通点がありますね。