奥谷氏が目指す新しいEC=Engagement Commerceとは
奥谷氏が持続可能なものづくりにおける重要なキーワードとして生み出したのが、新しいECの形「Engagement Commerce(つながりの商売)」だ。
「私が良品計画などで成果を出せたのは、デジタルマーケティングによってお客様とのつながりを創出できたからです。現在は、住む場所が離れていてもオンライン上で様々な人と出会える環境が整っています。たとえば、昨今クラウドファンディングで消費者が新たなブランドと出会い、応援する文化が浸透しつつあるのも、つながりの一種といえるでしょう。日本には良い商品や取り組みが多く存在しているにもかかわらず、一部は忘れ去られています。オンラインチャネルを活用すれば、そうした商品の作り手と消費者をつなげられるのです」
また、Engagement Commerceという概念には、健全にビジネスがつながり循環していく仕組みづくりも含まれる。たとえば、奥谷氏が例に挙げたクラウドファンディングでは、支援を希望する人の数によって事前にどの程度の需要があるのか把握でき、生産量の適正化が可能だ。大量に在庫が残らないため、無理なセールを実施する必要がなく、商品を定価で販売できる可能性が高まる。作り手が安定的に利益を得られるため、中小規模の工場やメーカーの廃業防止にまでつながるだろう。
「人や企業、活動がつながることで、世の中の良いものが廃れないように守るのがEngagement Commerceです。量ではなく質の経営の実践者になるのは、今からでも遅くありません。その実現に向けて、『廃業寸前のこの工場はこんなに良い商品をつくっている』『この素材が非常に環境に良い』などと伝えていきたいと考えています」
そんな活動の一環として、Super Normalはアメリカ・オレゴン州ポートランドのローカル認証「Salmon-Safe(サーモン・セーフ)」と提携した。ローカル認証とは、農薬の使用量など、特定の地域で独自基準を満たした企業や商品に付与されるものだ。国内外に様々なローカル認証が存在するが、サーモン・セーフは鮭が海や川で生きていけるよう水質保全の推進を目的につくられた。使用水量や殺虫剤といった薬品の種類などに一定の基準を設けている。
「Salmon-Safeは、私にとって大切な存在です。Super Normalでは、同ローカル認証のロゴを生かしたブランドやアパレル商品を開発するなどして、この素晴らしい取り組みがより広まっていくよう認知拡大を支援したいと考えています。得られた利益の一部は、Salmon-Safeへの寄付や、広報活動に活用する予定です。こうした『守るべきもの』を可視化し、商いを通して伝えることで、人々の共感を引き出したいのです」