「言い訳」から検索でたどり着けないEコマース導線を提示
ゴルフダイジェスト・オンラインの事例では、予約だけでなく、プレー後にも対話型AIで振り返りレビュー(口コミ)を入手している。ゴルフプレーを終えた直後のホットなタイミングで対話をすれば、獲得できるレビューやインサイトの精度が上がると仮説立てて設計した結果、「非常におもしろい知見を得られた」と山田氏は説明する。
「この取り組みにおける分析では『プレーを終えたゴルファーの9.8%は、ギアの購買意欲がある』とわかりました。たとえば『パターがショート気味なので、もう少し重量がありストロークで転がるパターに買い替えたい』といったように、プレーがうまくいかなかった要因として自身のもつ道具の欠点や課題点を語ってくれます。ここにEコマースへの誘導導線を設けると、お客様のニーズを捉えて自然な流れで売り場へ遷移できると考えています」(山田氏)
対話から情報を得られれば、自然とユーザー理解が深まる上、近年注目されるUGCの取得・活用促進にもつながる。また、こうした対話からユーザーが有する無自覚な欲求の可視化や、検索でたどり着けない商品との出会い創出ができる点も「現状のEコマースにおける課題解決のヒントになる」と山田氏は続けた。
「検索が主となる現在のEコマースは、次の図のようにキーワードを想起できる『自覚・既知領域』の商品にしかたどり着けません。Eコマースの役割が変化しているにもかかわらず、このままで良いのでしょうか」(山田氏)
そう問いかけながら、山田氏は従来型のEコマースではアプローチが難しい「自覚・未知領域」や「無自覚・未知領域」の需要喚起につながる事例を紹介した。
インサイトを「資産」に アートネイチャーの対話型AI活用術
電通と電通デジタルは、アートネイチャーとともに男性の毛髪相談カウンセリングAI「HAIRの部屋」を開発している。同AIは、アートネイチャーが有する毛髪関連の商品データ・ナレッジ(記事)やカウンセリングスキームを基に専門的なアドバイスを提供するもので、山田氏は「ユーザーがAIに悩みを相談すればするほど、パーソナライズされた対話体験と課題解決を提供できる」と強調した。
「たとえば検索の場合、『40代』『髪が細くなってきた』『白髪が出てきた』といった顕在的な悩みに対する商品しかヒットさせることができませんが、AIとの対話であれば『仕事のストレスが多い』『外食が多い』『仕事が忙しくてケアの時間が取れない』『1,000円程度の商品が良い』といった、ユーザーの課題や商品の検討ポイントといったインサイトを引き出した上でレコメンドができます。
こうした対話は、悩みから購買までの体験をシームレスにするだけでなく、『資産』としてEコマースを変えていきます。対話を重ねるたびにユーザーの情報がリッチになり、パーソナライズされた対話体験と課題解決策の提供が可能になるからです」(山田氏)
ユーザーから得た情報を「個別カルテ」としてプロファイリングし、理解促進につなげる取り組みはゴルフダイジェスト・オンラインでも実践されているという。また、某不動産企業でも顧客情報やインサイトを集約してマーケティングのPDCAに活用したり、セールストークのスクリプト生成に応用したりといった試みが行われているそうだ。
ここまでの事例からもわかるように、AIとの対話は「ニーズの言語化」や認知していない商品の魅力発見につながる「パーソナライズされた提案」といった、従来型のEコマースではたどり着けなかった顧客体験の進化につながる可能性を秘めている。こうした体験創出に興味をもつ人々に対し、延命氏は最後にこのようなメッセージを伝え、セッションを締めくくった。
「既に個別課題におけるAI活用は当たり前になってきました。ここからは、単にAIの使い方を考えるのではなく、根源的なEコマース事業の課題に対し、どうAIを使って解決していくか模索する必要があると考えています。
その上で、dentsu JapanはAI活用において、顧客視点だけでなく、Eコマース事例も多数有しているのが特徴です。ぜひこうした強みを生かして、皆さまのEコマース支援ができればと思います」(延命氏)