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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

ECzine Day 2024 Autumn レポート(AD)

対話型AIで進化するEコマースの顧客体験 電通デジタルがGDO・アートネイチャーなど先進事例を紹介

 生成AIの活用が日本にも広がる中、国内電通グループ(以下、dentsu Japan)では、長年の歴史によって培ってきた顧客視点や多数のEコマース事例を基に、AIとの「対話」を軸にした顧客体験の深化を進めている。2024年8月27日開催の「ECzine Day 2024 Autumn」にて、こうしたプロジェクトを推進する株式会社電通デジタル データ&AI部門 部門長補佐 山田健氏と、コマースマーケティング部門 延命敬一郎氏が登壇。Eコマースにおけるユーザー理解を深めるための視点や、AIを使った新たなコミュニケーションの事例を紹介した。

「すっぴんのAI」を使えるものにするには?

 dentsu Japanでは、長年多くのクライアントビジネスを手掛けてきた経験や、クリエイティブに関する知見を生かしたAI活用を進めている。その歴史は10年以上にわたり、2016年に開発されたAIコピーライター「AICO」をはじめ、生成AI登場前からバナー広告作成ツール「ADVANCED CREATIVE MAKER」、サッカースコア予測アルゴリズム「AI ELEVEN」などを生み出してきた。

電通グループのAI活用の歴史
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 2022年、生成AIを活用した一般向けサービスが続々と誕生し、2023年には生成AI全体の市場規模は137億ドルを記録(dentsu Japan調べ)。今後10年の平均成長率は27%、2032年には市場規模が1,180億ドルを超えると同社は予測している。こうした未来を踏まえ、dentsu Japanでは独自のAI戦略「AI For Growth」を発表。山田氏はコンセプトを次のように説明する。

「単なる業務効率化ではなく、クライアントとその先にいるエンドユーザーの体験価値向上を目指しています。そのために、マーケターやプランナー、クリエイターの考え方や知見をAIで再現し、活用していくコンセプトを打ち出しています」(山田氏)

株式会社電通デジタル データ&AI部門 部門長補佐 山田健氏
株式会社電通デジタル データ&AI部門 部門長補佐 山田健氏

 AI活用を推進する立場から、山田氏は「すっぴんのAIを使っても、まだ世の中に受け入れられない」と強調。そのため、電通デジタルではdentsu Japanがこれまで培ってきたマーケティング領域を中心とした専門性や、大規模消費者調査データ、大手SNSの発話分析基盤など、AIの精度向上に寄与する独自データ基盤、Microsoft、Google、Amazonといった主要プラットフォーマーとの強固なリレーションシップ、AI技術に関する研究力や実績を生かして顧客行動の促進を進める新たなソリューションを作り上げた。それが、統合マーケティングソリューションブランド「∞AI(ムゲンエーアイ)」である。

「電通デジタルでは、『隠れたAI大国』と呼ばれるモンゴルに開発拠点を有しており、国内外でAIコンサルタント、AIエンジニア200名弱が働いています。未来を見据えて東京大学や滋賀大学と産学連携の取り組みを実施している点も特徴です」(山田氏)

ユーザー理解・推測力の差をなくす Eコマース成長につながるAIの可能性

 Eコマースを成長させるため、多くの企業や担当者は「売上」というKGI(経営目標達成指標)や、「購入件数」「購入単価」「購入率」「訪問数」といったあらゆるKPI(重要業績評価指標)を追いかける日々を送っているはずだ。これらを達成するために新たな施策を打ち出したり、ソリューション・ツール導入を行ったりすることもあるだろう。しかし、延命氏は「それらを決める以前に必要なのは、ユーザー理解」だと強調する。

「お客様への理解を深め、喜びや負のポイントを見いだして初めて施策の設計や適したソリューション・ツール選定が可能となります。すべてはユーザー理解から始まり、その逆はありえません」(延命氏)

株式会社電通デジタル コマースマーケティング部門 延命敬一郎氏
株式会社電通デジタル コマースマーケティング部門 延命敬一郎氏

 続いて延命氏は、ユーザー理解を深める上での課題について言及した。現状、Eコマースにおけるユーザー理解の手段としては、大きく分けて次の三つが挙げられる。

  • 購買データ
  • 行動データ
  • アンケート

 それぞれのデータに対して「なぜ買ったのか」「なぜそのように行動したのか」「なぜそのように回答したのか」といった仮説立てが必要となるが、従来これらは「推測」での読み解きが主となり、マーケターの能力に依存する点が課題となっていた。

「誰が取り組むかによって仮説の精度にばらつきが出る、施策のスピード感が変わるなど、一貫性がなくなってしまうのは良くないことです。素早いPDCAを回すには、前出の『なぜ』がもっと素早くわかればいいのにと考えていました」(延命氏)

ゴルフ経験値と質問の質に相関性が見えた「GDO店員さん」事例

 こうした課題を克服する可能性を秘めているのが、AIだ。AIを使ってユーザーと対話を繰り広げれば、「なぜ」を深掘りして理解をより深められる。ここで山田氏から、ある事例が紹介された。

「電通デジタルは、ゴルフポータルサイトを展開するゴルフダイジェスト・オンライン様と『GDO-AI Lab』を立ち上げ、ラボ型開発を行っています。取り組みの中で、ゴルフ場予約サイト内にAIチャットを搭載した対話型インターフェース『GDO店員さん』のPoCを実施しました」(山田氏)

「GDO店員さん」とは
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 本施策は「ゴルフ場の予約」をコンバージョンポイントとし、対話から「ユーザーが予約時に気にする情報」を得るために行われた。実際にこれらを可視化すると「コースレイアウト・難易度・設計」「料金・コストパフォーマンス」「交通・アクセス」といった項目が上位に挙がり、おおむねイメージに近い傾向が取得できたという。

「今回の大きな発見は、ユーザーのゴルフ経験の差により、重要視する条件に差が出ると判明した点です。対話を開始したユーザーの72%は自身のゴルフ経験を話し、約3分の滞在時間の間に平均3.8回の回答を返してくれました。

 その内容を分析すると、『上級者ほどホスピタリティに関する項目を重要視しない』『ラウンド経験がある初級者は、ゴルフを始めたてなのでコースレイアウトや難易度、設計について語りたい』といった傾向が見えてきたのです」(山田氏)

「言い訳」から検索でたどり着けないEコマース導線を提示

 ゴルフダイジェスト・オンラインの事例では、予約だけでなく、プレー後にも対話型AIで振り返りレビュー(口コミ)を入手している。ゴルフプレーを終えた直後のホットなタイミングで対話をすれば、獲得できるレビューやインサイトの精度が上がると仮説立てて設計した結果、「非常におもしろい知見を得られた」と山田氏は説明する。

「この取り組みにおける分析では『プレーを終えたゴルファーの9.8%は、ギアの購買意欲がある』とわかりました。たとえば『パターがショート気味なので、もう少し重量がありストロークで転がるパターに買い替えたい』といったように、プレーがうまくいかなかった要因として自身のもつ道具の欠点や課題点を語ってくれます。ここにEコマースへの誘導導線を設けると、お客様のニーズを捉えて自然な流れで売り場へ遷移できると考えています」(山田氏)

 対話から情報を得られれば、自然とユーザー理解が深まる上、近年注目されるUGCの取得・活用促進にもつながる。また、こうした対話からユーザーが有する無自覚な欲求の可視化や、検索でたどり着けない商品との出会い創出ができる点も「現状のEコマースにおける課題解決のヒントになる」と山田氏は続けた。

「検索が主となる現在のEコマースは、次の図のようにキーワードを想起できる『自覚・既知領域』の商品にしかたどり着けません。Eコマースの役割が変化しているにもかかわらず、このままで良いのでしょうか」(山田氏)

Eコマースにおけるユーザーの課題
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 そう問いかけながら、山田氏は従来型のEコマースではアプローチが難しい「自覚・未知領域」や「無自覚・未知領域」の需要喚起につながる事例を紹介した。

インサイトを「資産」に アートネイチャーの対話型AI活用術

 電通と電通デジタルは、アートネイチャーとともに男性の毛髪相談カウンセリングAI「HAIRの部屋」を開発している。同AIは、アートネイチャーが有する毛髪関連の商品データ・ナレッジ(記事)やカウンセリングスキームを基に専門的なアドバイスを提供するもので、山田氏は「ユーザーがAIに悩みを相談すればするほど、パーソナライズされた対話体験と課題解決を提供できる」と強調した。

「たとえば検索の場合、『40代』『髪が細くなってきた』『白髪が出てきた』といった顕在的な悩みに対する商品しかヒットさせることができませんが、AIとの対話であれば『仕事のストレスが多い』『外食が多い』『仕事が忙しくてケアの時間が取れない』『1,000円程度の商品が良い』といった、ユーザーの課題や商品の検討ポイントといったインサイトを引き出した上でレコメンドができます

 こうした対話は、悩みから購買までの体験をシームレスにするだけでなく、『資産』としてEコマースを変えていきます。対話を重ねるたびにユーザーの情報がリッチになり、パーソナライズされた対話体験と課題解決策の提供が可能になるからです」(山田氏)

対話データで変わる購買体験
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 ユーザーから得た情報を「個別カルテ」としてプロファイリングし、理解促進につなげる取り組みはゴルフダイジェスト・オンラインでも実践されているという。また、某不動産企業でも顧客情報やインサイトを集約してマーケティングのPDCAに活用したり、セールストークのスクリプト生成に応用したりといった試みが行われているそうだ。

 ここまでの事例からもわかるように、AIとの対話は「ニーズの言語化」や認知していない商品の魅力発見につながる「パーソナライズされた提案」といった、従来型のEコマースではたどり着けなかった顧客体験の進化につながる可能性を秘めている。こうした体験創出に興味をもつ人々に対し、延命氏は最後にこのようなメッセージを伝え、セッションを締めくくった。

「既に個別課題におけるAI活用は当たり前になってきました。ここからは、単にAIの使い方を考えるのではなく、根源的なEコマース事業の課題に対し、どうAIを使って解決していくか模索する必要があると考えています。

 その上で、dentsu JapanはAI活用において、顧客視点だけでなく、Eコマース事例も多数有しているのが特徴です。ぜひこうした強みを生かして、皆さまのEコマース支援ができればと思います」(延命氏)

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提供:株式会社電通

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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