ユーザー理解・推測力の差をなくす Eコマース成長につながるAIの可能性
Eコマースを成長させるため、多くの企業や担当者は「売上」というKGI(経営目標達成指標)や、「購入件数」「購入単価」「購入率」「訪問数」といったあらゆるKPI(重要業績評価指標)を追いかける日々を送っているはずだ。これらを達成するために新たな施策を打ち出したり、ソリューション・ツール導入を行ったりすることもあるだろう。しかし、延命氏は「それらを決める以前に必要なのは、ユーザー理解」だと強調する。
「お客様への理解を深め、喜びや負のポイントを見いだして初めて施策の設計や適したソリューション・ツール選定が可能となります。すべてはユーザー理解から始まり、その逆はありえません」(延命氏)
続いて延命氏は、ユーザー理解を深める上での課題について言及した。現状、Eコマースにおけるユーザー理解の手段としては、大きく分けて次の三つが挙げられる。
- 購買データ
- 行動データ
- アンケート
それぞれのデータに対して「なぜ買ったのか」「なぜそのように行動したのか」「なぜそのように回答したのか」といった仮説立てが必要となるが、従来これらは「推測」での読み解きが主となり、マーケターの能力に依存する点が課題となっていた。
「誰が取り組むかによって仮説の精度にばらつきが出る、施策のスピード感が変わるなど、一貫性がなくなってしまうのは良くないことです。素早いPDCAを回すには、前出の『なぜ』がもっと素早くわかればいいのにと考えていました」(延命氏)
ゴルフ経験値と質問の質に相関性が見えた「GDO店員さん」事例
こうした課題を克服する可能性を秘めているのが、AIだ。AIを使ってユーザーと対話を繰り広げれば、「なぜ」を深掘りして理解をより深められる。ここで山田氏から、ある事例が紹介された。
「電通デジタルは、ゴルフポータルサイトを展開するゴルフダイジェスト・オンライン様と『GDO-AI Lab』を立ち上げ、ラボ型開発を行っています。取り組みの中で、ゴルフ場予約サイト内にAIチャットを搭載した対話型インターフェース『GDO店員さん』のPoCを実施しました」(山田氏)
本施策は「ゴルフ場の予約」をコンバージョンポイントとし、対話から「ユーザーが予約時に気にする情報」を得るために行われた。実際にこれらを可視化すると「コースレイアウト・難易度・設計」「料金・コストパフォーマンス」「交通・アクセス」といった項目が上位に挙がり、おおむねイメージに近い傾向が取得できたという。
「今回の大きな発見は、ユーザーのゴルフ経験の差により、重要視する条件に差が出ると判明した点です。対話を開始したユーザーの72%は自身のゴルフ経験を話し、約3分の滞在時間の間に平均3.8回の回答を返してくれました。
その内容を分析すると、『上級者ほどホスピタリティに関する項目を重要視しない』『ラウンド経験がある初級者は、ゴルフを始めたてなのでコースレイアウトや難易度、設計について語りたい』といった傾向が見えてきたのです」(山田氏)