「ごめんなさい+α」の徹底が返品率を下げる
「客観的には、単なる『野菜の通販』に見えるかもしれません。その裏には、有機農業をはじめ、環境負荷の低い農業を広めたいという強い想いがあります」(坂本氏)
2009年に創業した坂ノ途中。2010年12月にオンラインショップを開設し、有機野菜を中心に販売している。2016年には初めてVCからの資金調達を実施し「スタートアップ企業として本格的な経営活動へ舵を切った」と坂本氏は語る。
「創業時はNPOに近い考え方で運営していました。しかし、それでは世の中へ強いインパクトを与えるのが難しいと実感し、当社の代表(小野邦彦氏)が方向転換を図ったのです。当社は主に、有機農業に熱心な一方で経営規模が小さく、売り先が確保できない新規就農者と提携しています。2021年度の一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センターの調査では、新規参入者の約62%が農業所得だけで生計が成り立っていないとわかっています。当社の提携農家が、ビジネスとして農業を継続的に営める仕組みが不可欠です」(坂本氏)
新規就農者が利益を得るには、まずは育てた野菜を容易に流通できる環境を確保しなければならない。坂ノ途中がプラットフォームとして機能し、生産者と消費者をつなげる役目を果たしている。
加えて、同社は提携農家のネットワークを拡大するため、取り扱う野菜に独自の基準を設けているという。農林水産省が定める有機農産物のJAS認証は「種まきや植え付け前の2年以上、化学合成農薬・化学肥料を使用していない」などの細かな条件があるが、新規就農者にとっては大きな壁だ。坂本氏と丸山氏は「お客様も生産者も無理なく使えるサービスにしたい」と語る。
「当社における野菜の取り扱い基準は『栽培期間中に化学合成農薬と化学肥料を使用していないこと』です。果樹であれば、基本的に化学肥料は不使用、化学合成農薬は使用成分回数が各都道府県の定める基準の半分以下であるものを販売しています」(丸山氏)
「果樹は1回病気になると木ごと切る必要があります。そこまで求めるのが、低環境負荷の農業を広める上で正しいのか疑問でした」(坂本氏)
現在、同社の提携農家は370軒を超える。顧客数も徐々に増加し、会員規模は約1万人にまで成長した。そのほとんどが定期購入者で、解約率は5~7%に抑えられている。
「当社が取り扱う野菜は、加温栽培(寒い時期でも野菜を安定的に収穫できるよう暖房機などで温度を高める栽培方法)で出荷時期を早めることはしていません。その分、定期便には、一般的なスーパーで流通しない旬の野菜を多く詰めています。届いた野菜によって『春が来たな』感じられたり、新しい野菜と出会えたりする点が魅力です」(坂本氏)
顧客の理解を促すため、同社は定期便に全商品の品名・農園名・産地・おすすめの食べ方や保存法を記載した「お野菜の説明書」を同梱している。同じ野菜でも以前と味が異なる場合は、その理由まで説明する徹底ぶりだ。
「たとえば、雨がつづくと野菜は水っぽくなってしまいます。そんな味の違いも、お客様に楽しんでほしいです。もちろん、品質に不具合がある場合は返金対応をしていますが『味がいつもと違うから返金してほしい』といった問い合わせはほとんどありません。『味が違ってごめんなさい』で終わらせずに、美味しく食べられるレシピを提案するなど“+α”を提供しているからだと思います」(丸山氏)