競争力を失っていく日本のBtoB企業
半導体デバイスや機能性樹脂、業務アプリケーション……。日本には、様々な領域の商品を製造・販売するBtoB企業が存在する。『儲けの科学 The B2B Marketing 売れるサービスを開発し、営業生産性を劇的に引き上げたオーケストレーションの技法』(日経BP/庭山一郎 著)は、そんな日本のBtoB企業が“本気で取り組むべき”マーケティングの知識を網羅した一冊だ。
著者である庭山氏は、長年、BtoBマーケティングを専門にコンサルティングサービスを提供してきた。本書で、その魅力をこう語っている。
「B」はプロとプロの世界です。(中略)何であってもそれを売っている人より製品を日々使っている人のほうがはるかに詳しく、感性に訴えてイメージで印象を操作することはほとんどできません。
そして、B2Bなら成功している商材はその理由を説明することができます。(中略)その説明にはクリエイティブを使います。
(中略)つまり、常にデータを見ながらコミュニケーションすることが最高に面白いのです。B2Bマーケティングはこの“2つのバランス”が「科学70%:感性30%」だと考えています(P56-57)
日系企業の場合、組織が縦割りになっているケースが珍しくない。しかし、各事業部が連携しなければ、利益を生み出し続けられないだろう。組織連携を促進する“横糸”となるのが、マーケティングだ。庭山氏は、「日本の経営者が今、本気でマーケティングに取り組まなければ、日本は競争力を完全に失うかもしれません(P.82)」と警鐘を鳴らす。
課題はCMOの不在 マーケティングを軸にした経営戦略とは
本書では、一貫して「マーケティング・オーケストレーション」の必要性が強調されている。あらゆる組織やナレッジなどを全体最適化し、調和させて事業成長を目指す考え方だ。
マーケティング部門と、セールス部門と、カスタマーサクセス部門と、ものづくり部門を、オーケストラのように配置し、各パートに全体構成を教え、指揮者としてのCMOを置きます。そして楽譜と指揮に合わせて見事に演奏できれば、経営者の書いた事業計画、つまり交響曲が素晴らしいハーモニーを奏でてくれます。そのハーモニーこそが収益なのです。(P453)
庭山氏は、日系企業の課題としてCMO(最高マーケティング責任者)の不在を指摘し、マーケティングを中心に据えた経営について解説。その上で、具体的な戦略の立て方や「ABM」「PRM」などの押さえておきたいキーワード、マーケターの育成方法まで紹介している。本書はまさに、BtoBマーケティングの全体像を示す“教科書”といえよう。
また、序章では、庭山氏自身の子どもの頃の経験、お歳暮配達のアルバイトやディスコでのエピソードなどが記されている。マーケティングの重要性やスキルだけでなく、面白さや楽しさにも気付けるはずだ。