日本の消費者は1度でも嫌な体験をすると戻ってこない
オーストラリアを拠点に外資系企業へ勤めていた上崎氏は、2017年にShopifyの日本事業立ち上げへ参画し、EC業界のキャリアをスタートした。EC運営の経験はなかったものの、「Shopify Japanへの入社をきっかけに、その面白さに気づいた」と話す。
「eコマースの興味深い点は、一定の事業規模にまで成長すると、『こうすれば成功する』という正しいやり方がないことです。テック業界の一角で、変化のスピードも非常に速く、昨日の当たり前が次の週には当たり前でなくなっている可能性もある。変化の激しい領域で新規事業の立ち上げに携わりたいと思い、Shopify Japanに入社しました」
その後は独立し、自身でEC運営のコンサルティングを行う会社を立ち上げた上崎氏だが、2023年にDotdigital Japanのカントリーマネージャーに就任。現在は、同社の日本市場への展開を進めている。
海外での就業経験もある上崎氏が、日本の事業者の長所として評価するのがサービスレベルだ。
「日本のサービスレベルは、世界と比べてもピカイチです。スーパーに並んでいる商品もきれいにパッケージングされていますし、カスタマーサポートも丁寧で素晴らしいです。レストランでも美容室でも、どこで何をするにもレベルが非常に高いと実感しています。だからこそ、日本の文化や商品には海外ファンが多いのでしょう」
しかし、その一方で上崎氏は、「日本のサービスの良さがオンライン上に反映されていない」と指摘する。わかりやすいのは、メールによる情報発信だ。上崎氏はアパレルブランドを例に、日本の事業者が有する課題をこう説明する。
「たとえば、同じ実店舗でずっとブラックカラーの洋服を見ているのに、急にホットピンクの洋服を提案されたり、既に購入している商品と同じ服をおすすめされたりしたら、驚きますよね。オフラインの接客では通常起こり得ないことが、オンラインでは依然として存在しています」
こうした「違和感のあるサービス」は、メールの一斉配信や配信後の分析不足など、One to Oneコミュニケーションの不足から生まれているものといえる。普段から質の良いサービスに慣れている日本の消費者は、オンライン上でも質の高い丁寧なサービスを求める傾向にあるため、こうしたギャップはブランド毀損につながる懸念もある。
「海外では、サービスに嫌な点があってもあまり気にしない人が多いです。反対に、日本の消費者は少しでも嫌な思いをすると、最低4年は同じブランドで商品を購入しないと認識したほうが良いでしょう。対面の接客では、なんとなく空気を読んで顧客の求めるサービスを提供できますが、オンラインでお客様を理解するには、データで分析する必要があります」