名称も場所も変わった「Oracle CloudWorld 2022」
データベースベンダーで知られるOracleが、2022年10月17日から20日にかけてアメリカ・ラスベガスで開催した「Oracle CloudWorld 2022」。同イベントは、2019年まで「Oracle OpenWorld」としてアメリカ・サンフランシスコで行われていたものです。Salesforceのイベント「Dreamforce」に参加者数で追い越されてしまいましたが、イベント開催時にサンフランシスコの街が赤色(Oracleのコーポレートカラー)になるのが風物詩となっていました。今回は初のラスベガス開催、リアルとオンラインで合計1万3,000人以上が視聴したそうです。
前回のOracle OpenWorld(2019年)以降、Oracleは本社をカリフォルニア州からテキサス州に移転させました。それに加えイベント名・開催場所を変更と、改革の様子がうかがえます。「CloudWorld」という名称は、インフラサービス(IaaS)とアプリケーション(SaaS)でクラウドを押し進めている同社の決意の表れと言えるでしょう。
イベントでは、CEOを務めるSafra Catz氏、共同創業者で現在CTOのLarry Ellison氏などが登場し、同社の戦略や方向性、最新の機能などを発表しました。
Catz氏の基調講演では、Nvidiaの創業者兼CEO Jensen Huang氏がゲストとして登場。OracleはIaaS「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」にNVIDIA CorporationのGPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)を加え、同社のAIプラットフォームをOCIインスタンス上で利用できる提携強化などを発表しました。
トレードマークの革ジャンをまとったHuang氏は、2社の提携により「『クラウドファーストのAI戦略』として、クラウドでトレーニング、開発、実装までを行うことができる」と話しました。同氏はさらに、「クラウドに拡張性があるインフラが存在する現在の環境は、数十年前にAIの取り組みを古いシステムで開始した時からすると夢のようなこと」「自然言語処理、音声AI、対話型AIなどでブレークスルーが起こっている」と続けます。実際、2ヵ月もしないうちに対話型AIの「ChatGPT」が生まれ、世の中に大きな衝撃が走ったのも印象的です。
続いて、お待ちかねのEllison氏も1時間にわたる基調講演を行いました。78歳とは思えない若々しい立ち姿で、マルチクラウドの実現に向けてさまざまなパブリッククラウドとの相互接続を進めているとアピール。多くのパブリッククラウドでは、分析などを目的に自社クラウド内のデータをほかのクラウドに移す際に料金を課していますが、開発者はこれを「税」として嫌っています。こうした状況を踏まえ、Oracleは現時点でMicrosoft Azureとの相互接続を実現。これは、クラウド領域の最大手Amazon Web Servicesへの対抗策と見ることもできます。
挑戦的な発言をすることもあるEllison氏ですが、コロナ禍を経てのメッセージはヘルスケアへの注力でした。実際に、Oracleは医療情報システムのCernerを2022年に買収しています。基調講演では、多くの時間を電子カルテなど次世代のヘルスケアアプリケーション構想に割いていました。
また、Oracleは「Oracle Cloud Applications」としてERP、人事などのSaaSアプリケーションを展開しています。今回のイベントの目玉は、「Oracle B2B Commerce」の発表でした。これは、Oracle Cloud ERPを利用する顧客が直接つながるというものです。その第1弾として、J.P.Morgan、FedEx Expressと提携し、金融・物流サービスの統合を実現する旨を発表しました。BtoBでは巨額な金銭のやり取りに加え、大量出荷などに対応する物流の仕組みも欠かせません。Oracle CloudERP上で容易につなぎ込み、業務フロー効率化を実現できるのは、注目すべきポイントです。
Oracle B2B Commerceに対応するサービスや企業が増えれば、OracleのSaaSへの評価はより高まるでしょう。野心的な取り組みであり、今後どう進展するのか気になります。