取引先ごとの対応が必要なBtoBのEコマース
BtoCのサイトではあまりないことでしょうが、企業間の取引では、同じ商品でも異なる価格で販売することがあります。これは、その取引先との関係性や、購入する数量によって単価が変わるためです。取引先ごとに、支払い方法が異なるという場合もあります。
また、取引先によっては、自社で使い慣れている仕組みでECサイトを構築してほしいと要望されるかもしれません。その場合は、取引先ごとに異なるECサイトを構築して運用しなければならず、それぞれ別の管理画面から商品登録や在庫管理が必要です。数が少ないうちはいいですが、増えてくるとその管理が大変になります。
マルチテナント、マルチプライシング
一般的なECサイトでは、販売者が単一、購入者が複数という関係です。しかし、BtoBの場合は、その機能だけでは十分ではありません。第3回では、ひとつのECサイト上で複数の会社が販売する、マーケットプレイスについて紹介しました。今回は、購入側の立場が複数あり、それぞれ異なるUI/UXが必要というケースを紹介します。
一般的なECサイト構築ツールでは、クーポンコードを持っている人は割り引きするなどプロモーションの機能を持つ物もありますが、基本的には、商品の価格はどのお客さんに対しても同一になっています。これを、顧客ごとに異なる価格で販売する場合、必要な機能は2つです。
①マルチテナント
マルチテナントは、ひとつのシステムやサービスを、複数のユーザーで共有するモデルのことです。本来は、オンラインサービスなどのバックエンドの仕組みのことを指していますが、Sitecoreでは、ECサイトのバックエンドがひとつで、ユーザーごとに異なる購入ページがある状態をマルチテナントと呼んでいます。街のショッピングモールで複数のテナント(お店)が入っている状態と似ているので、むしろ分かりやすいかもしれません。購入者が自社のIDとパスワードでログインすると、自社専用のECサイトの画面に入れるような状態のことです。
②マルチプライシング
単純なECサイト構築ツールでは、商品を登録する時に設定した価格が、全体で共通した価格になります。しかし、マルチテナントで顧客ごとに作成した購入ページで、それぞれ異なる価格を設定できる状態を、Sitecoreではマルチプライシングと呼んでいます。
得意先ごとのECサイトを管理するのは大変
Diversified Foodservice Supply(略称、DFS)という企業の事例を紹介します。DFSは、業務用厨房機器のメンテナンス用品や飲食店運営に必要な消耗品、電化製品、小物、アクセサリを、外食産業向けに提供している米国の会社で、スターバックスも取引先に名を連ねています。
DFSでは、取り扱い商品が10万点以上あります。個人レストランや、地域に数店舗のような小規模チェーンなどは同じ価格で販売しますが、スターバックスのような大規模チェーン店の場合は大量に購入してもらえるので、いわゆるお得意様価格を設定します。このため、大規模な取引先に対しては、個別のECサイトを立ち上げるという対応をとっていました。ビジネスを拡大するうち、その個別サイトは10ブランドになってしまっていたといいます。
商品の種類が多いこともあり、それぞれのECサイトの管理画面にログインして商品登録や在庫管理をするのは、管理負荷が大きすぎます。そこでDFSでは、バックエンドは共通で、購入画面を複数作れるようなEコマースのプラットフォームを探していました。そして採用されたのが、Sitecore OrderCloudです。これにより、10個あった個別のサイトのバックエンドを、ひとつにまとめることができました。