店舗・EC間に生じる「売上問題」 システム連携前に評価基準の明確化を
こんにちは、PLAY Inc.の齋藤和幸です。前回の記事では、店舗とECの連携が求められる中でVMDが持つ可能性について書かせていただきました。今回は、店舗とECの間で生じる摩擦や、そもそも店舗とECで何を連携するのか、についてVMDの視点からお伝えします。
アパレル業界では、ひと昔前から店舗とECの対立が問題視されていました。その大きな要因となっているのは「売上問題」です。店舗は店舗の売上を、ECはECの売上をKPIとして個別に評価されていたため、店舗という強い顧客流入元があるにもかかわらず、店舗とECの相互送客がうまく機能していませんでした。
本来、企業やブランドにとってはどこで売れてもかまわない、さらに言えばECでの売上は、店舗運営で必要となることが多い売上歩率などの費用を抑えることができる分、利益が生まれやすいというメリットがあります。しかし、店舗からすればいくらECへ誘導したとしても評価にならない。それどころか店舗の売上減につながるため、できるだけ誘導したくない、というのがコロナ禍以前より散見されていた対立構造です。
現在ではさまざまなアプリ・ツールの活用が普及し、販売員がスタイリングをウェブ上にアップロードするなどの取り組みが行われており、同スタイリング経由の売上をインセンティブで販売員の評価に反映することで、店舗とECの一体化を図る企業も増えています。しかしそれは、コロナ禍で店舗での集客が難しいという環境のために、空いた時間で積極的に行っているにすぎず、根本的に店舗とECの確執がなくなったわけではないと感じています。
インセンティブは「売上問題」の部分的解決にはつながっていますが、根本的な販売員の評価としてKPIが明確化され、一時支給ではなく通常の給与に反映される仕組みを確立しなければこの問題の解決には至らないでしょう。
たとえば、前出のスタイリングを経由した売上はGoogleアナリティクスなどの解析で数値化されますが、店舗からECへの誘導に対する指標・計測は自己申告となり、さらにそこから流入したアクセスに関しては、実際にコンバージョンにつながったのかどうか、正確に計測することは困難です。
店舗に二次元コードを設置し、ECへ誘導するなどの取り組みは行われていますが、1回のセッションでコンバージョンに至らず、新規セッションとして再度ECを訪れた際にコンバージョンすることもあります。この売上を店舗と紐づけるには、IPアドレスなど個別判定できる要素の解析が必要となりますが、現状ここまで取り組むことができる企業は少ないでしょう。そのため、店舗からECの誘導に関しては別の評価軸を用意し、結果を評価として反映させていくような新しい評価基準の仕組みを作るまでは、“暫定的な協定”と言わざるをえないと考えています。
ここまで、店舗からECへの送客について問題点をお伝えしてきましたが、店舗や出店している館のイベント情報をECに掲載し、店舗に送客することもあります。この際、店舗での売上はEC運営側に評価として反映されるのかと言えばこちらもNO。店舗とECの相互送客や売上補助は、両者におけるKPIなどの指標や評価基準の明確化を行わない限り実現は難しく、これが行われていないことが、どちらにとってもプラスにならない状況を作り出す要因となっています。
店舗でもECでも、そこにかかわる人間には仕事に対する正当な評価が必要です。システム周りの改善は加速しているECですが、そこにかかわる人間に、はっきりとした指標と評価基準を設定することで、店舗もECも同じ目標に向かって迷いなく進むことができるようになるでしょう。チームとして切磋琢磨することはあれど、敵対することはなくなると考えています。