価値のマトリクスで自社の立ち位置を客観視しよう
――コロナ禍前後で、越境ECに挑戦しようとする事業者の動きに変化はありましたか?
徳田(世界へボカン) インバウンドがほぼゼロという状況下で、海外の方々へものを届ける手段として越境ECに興味を持つ事業者は増加傾向にあります。実際に、世界へボカンへの問い合わせ数はコロナ禍以前と比べると1.2~1.3倍ほどに増加しています。
問い合わせが増えている背景には、新型コロナウイルス感染症対策として特別枠が設けられたIT導入補助金の存在も大きく、Shopifyを活用して越境ECも行うことができるECサイトを1から構築したい、といったご相談も多く寄せられています。
しかし、「補助金で賄えるのならば、越境ECに取り組みたい」。つまり「自社の資金を使わずにできるのであればやりたい」といった姿勢の方も見受けられ、危惧している側面もあります。IT導入補助金の申請が通ったとしても、受け取ることができる金額は250~300万円程度。越境EC対応をするだけであれば、この金額内に収めることも可能ですが、ただECサイトを立ち上げても、ものは売れません。より多くの方に自社の商品の存在を知ってもらい、購入してもらうには、マーケティング施策などを行う必要がありますし、そこにはもちろん費用が発生します。作って終わりではなく、その先の運用や施策まで検討し、継続的に努力を重ねる必要がありますので、その点はきちんとご理解いただきたいと考えています。
――海外の方が購入できる場所を設けても、購入できるようになったことを周知させなくては意味がありませんよね。ちなみに、今から取り組むとしても遅すぎることはないのでしょうか?
徳田 遅すぎるということは決してありません。しかし、多くの方が取り組みを進める今だからこそ、準備が的外れにならないように注意は必要です。先日、フラクタの河野さんもECzineの記事内で話していましたが、Shopifyは魔法の箱ではありません。そして、私たち支援会社の人間も魔法使いではないので、海外で需要のないもの、売れないものを売れる商品にすることは困難です。そのため、当社では越境ECにチャレンジする事業者に向け、「価値のマトリクス」というフレームワークで自社や商品の現状を整理してから、取り組みを行うように勧めています。
――「価値のマトリクス」について、詳細をお聞かせください。
徳田 国内でのEC販売にも共通する要素はありますが、「売れるものを売る」場合と「売りたいものを売る」場合で、戦略の立てかたは異なります。
越境ECで新たに販売を行いたいと考える事業者は、「売りたいものを売る」、つまりマトリクス内で言うと「実績ナシ」のゾーンに位置するケースがほとんどでしょう。機能で訴求できる場合は別ですが、嗜好品など生活必需品以外のものを売る場合は、情緒的価値を満たす必要があり、そこには共感が必要となります。当社が支援している事業者を例に挙げると、D2Cブランドの「Pampshade(パンプシェード)」はこの「共感価値」を上手に提供し、顧客獲得に成功しています。
「共感価値」を提供するには、次の項目を整理することが必要です。
- 商品を手に取ってもらいたい顧客の定義(ペルソナ)
- 顧客とのタッチポイント(どこで認知を獲得するか)
- 顧客の情報収集源(SNS、メディア)
- その商品にまつわるストーリー
- 創業者の想い
これらを明確にした上で、ECサイトの見せかたやその場で伝えるメッセージ、集客方法などの具体的なアクションに落とし込んでいきます。