Shopifyが示した、コマースのさらなる可能性
2020年2月に、クリエイター向けイベント「Creators MIX 2020」にて、「テクノロジーとクリエイティブがコマース体験を変革する」をテーマに登壇した河野さん(参考記事)。当時は、ここまでEC市場が拡大し、D2Cやカナダ発のヘッドレスコマースを掲げるECプラットフォーム「Shopify」が、業界外の人たちにも広く知られるようになるとは誰も予測していなかった。あれから1年ほど経ったが、河野さんはECの現状を踏まえ「本当の意味でのコマースのおもしろさはまだ伝わっていない」と言う。
「コロナ禍によりEC市場は拡大しましたが、『Eコマースをおもしろくしよう!』ではなく、『Eコマースをやらないとまずい』という危機感によるところに偏ってしまったことは、Eコマースの業界全体で見ると残念だなと感じています。Shopifyについても、ヘッドレスコマースの概念だったり、プラットフォームとしての本質的な価値よりも、簡単にECを始めることができることが主なメリットとして認識されていますよね。もちろん簡単にできるのは魅力のひとつなのですが、Shopfiyを使えばなんでも叶う『魔法の箱』のように期待するのは問題だと思っています」
とはいえ、すでにShopifyで構築されたECで買い物をした経験のある人はご存じのとおり、これまでなかったショッピング体験が可能になっている。たとえば、クレジットカードを持っている人なら、カート部分のストレスはごく少ない。
「日本のEコマースは、UXよりもUIに独自性を出してしまう傾向にあると考えています。たとえばスマートフォンのインターフェースについて言えば、iPhoneやAndroidのUIが優れているというよりは、そのUIに世界中の人が慣れていることのほうが大きい。人は、慣れているものがいちばん使いやすいんですね。Eコマースも同様に考え、最高のUIを突き詰めるのではなく、多くの人が慣れているかつ、運営面からの視点も踏まえた最適解を提供するのがひとつのゴールだと考えています。
たとえば、カート画面についてさらにステップを短縮したいという要望がよくありますが、Shopifyでは基本的には改修しないことが推奨されています。理由は、多くのECサイトが同じカート画面、ステップを提供しているほうがユーザーが慣れ、結果的に体験が良くなるからです。UXにおけるある一部分のパートのUIに関しては、ある程度共通化されるほうがユーザーが使いやすくなります。
一方で、Shopifyで構築されたサイトでは、僕自身もついつい買ってしまうという体験をしています。Shopifyのクレジットカード決済機能『Shopify ペイメント』は、Shopifyで構築されたサイトAで決済を行ったことがあれば、別のサイトBでもメールアドレスを入力するだけで他の情報が自動的に入力されます。ポイントが貯まる決済サービスも独特の楽しみがありますが、ある程度の規模に到達すると、その後はUI・UXが成長のカギになるのではないでしょうか」
コロナ禍で人との接触が限られ、オンラインからの発信を起点に買い物をする機会も増えた。Instagramのショッピング機能やライブコマースのように、SNSなど他のメディアからECでスムーズに購入できるようになることも期待されている。
Shopifyは2021年2月にTikTokと日本でも提携、Shopifyの管理画面からTikTokへの広告出稿が可能になり、迅速でスムースな連携が話題になった。Shopifyは他サービスとの迅速な連携も強みだが、その仕組みのベースにもヘッドレスコマースの考えかたがある。フロントとバックエンドのシステムが分離しているため、クリティカルな要素の多いバックエンドに影響を与えず、ユーザーが目にするサイトの表面の部分にさまざまな工夫を凝らすことができる。
「決済にしろ、SNSにしろ、そのショップのお客様によって必要なものは異なります。ミレニアル世代やZ世代と表現されますが、僕は世代には限定できないと考え、最近ではお客様の『スタイル』と表現しています。自分のお店のお客様のスタイルにあったものをきちんと選ぶことが、体験の向上につながります。
ヘッドレスコマースの仕組みはサイト表示が速いとか、カスタマイズがやりやすいなど機能面がフォーカスされがちですが、ヘッドレスコマースは本質的には、もっと幅広い意味を持っています」