コロナ禍で構造変化は加速 「EC売上が上がった!」油断に注意
森野(運営堂) 前回、吉村さんにお話をお聞きしてから3年が経ちました。その際に、ネットショップの現場にいる人たちが注意したいことを教えていただきましたね。こちらの3つです。
- ECの流れはどうなるのかということを常にキャッチしておくこと
- 顕在顧客、潜在顧客のニーズは何なのかをお客さんに聞く
- 商売の本質論もやっぱりかじるべき
新型コロナウイルス感染症によって世の中が激変しましたが、注意すべきことはこの3つから変わったでしょうか。吉村さんのお考えをお聞かせください。
吉村(ハイフィット) ネット通販はコロナ禍で急拡大していますよね。もともと、EC化率は年々上がっていましたが、これまでECを利用しなかった人たち、とくに高齢の方たちが外出自粛を余儀なくされたことで、ECの利用が増大したのは事実だと思います。
同時に、マーケティングの4Pで言うところの「Place」において、「宅配」が急拡大しています。従来、ECをやっていなかった飲食や小売の実店舗が、緊急事態宣言で休業要請があったり、お店に人が来なくなったことから、あわててECやデリバリーを始めました。つまり、売手と買手の両方によるEC利用が急増したと言えます。
コロナ以前からECをやっていた知人は皆「売上が上がっている」と言っていますが、同時に構造変化も加速していることは忘れてはいけないと思います。
森野 目先の売上が上がったからといって喜んでいると構造変化についていけなくなってしまうということですね。構造がどのように変化しているのか教えていただけますか?
吉村 いわゆるbeforeコロナでは、東京のアッパーミドルがEC消費市場を牽引していていました。それがコロナ初期になると、「生存欲求・防衛本能」「浪費より貯蓄(厳選消費)」「価値観の強制転換(不要不急・非接触)」のためのEC消費へと変化しました。マスクや消毒液、トイレットペーパーが売れたのはまさに生存欲求・防衛本能ですよね。
森野 あの時はすごかったですよね。本来はトイレットペーパーを買う必然性も緊急性もなかった人でも、実際に並んで買う人たちが出てきて品薄になってくると、買わなければという気持ちになります。まさに生存本能というか防衛本能です。
吉村 コロナ禍により仕事が減った人たちも多いため、厳選して買い物をするようになったのが「厳選消費」ですね。beforeコロナでは好景気で浮かれていた感もありましたが、今ではそれもなくなりました。価値観が、不要不急や非接触、遠隔など「ニューノーマル」に強制転換されたわけです。演劇、コンサート、スポーツ観戦のような体験型消費が激減し、セミナーや展示会も減りましたよね。
森野 なるほど。まずは目先の不安があって、それが解消された後にじわっと生活が苦しくなってくる。並行して人が動かなくなったことによる価値観の強制転換が起きたと。
吉村 その結果afterコロナには、かならず抑圧に対する反動、「だったら旅行に行くぜ」「これをやるぜ」が増えると考えています。中小零細企業の知人と話をすると、「コロナ禍が終わったら元に戻るんだろう」と言う人が少なくありません。しかし、価値意識は「何月何日を境に変わる」というものではないんです。徐々に静かに激変しています。社会構造も、徐々に静かに激変していることをちゃんと押さえておかなくては。これまでの商売の在りかたと同じだと思っていたらダメだという話です。だから僕は、afterよりも「beyondコロナ」の表現が的確だと思っています。