速く正確に求める商品へ ミドリ安全がECで重視するサイト内検索
需要に供給が追いつかないーー。マスクや手袋など安全衛生用品を扱うミドリ安全では、コロナ禍で急増したニーズに対し、商品の供給はもちろん、運営するECサイトの買い物体験を向上させようとユーザビリティの改善に勤しんでいる。
ミドリ安全は、1952年に安全靴の製造から会社を興し、ユニフォーム・ワーキングウェア、ヘルメットの製造にも着手、メディカル用品や工事作業用品などを仕入れ、企業向けに安全用品を販売する会社として事業を拡大してきた。滑りにくい安全靴「ハイグリップ」は大手飲食チェーンも導入し、累計2,500万足を売り上げるヒット商品として知られる。
ネット販売は2008年5月から正式に開始。従来の法人向け販売を担うBtoB-ECサイト「ミドリ安全.com」に加え、一般消費者向けのBtoC-ECサイト「ミドリ安全.com PLUS」も開設した。楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングなどのモール展開も行っている。今回のコロナ禍により、企業・消費者から両方のサイトに注文が殺到。仕入れが間に合わないほど寄せられるネットからのニーズを、12年間運営してきたECサイトが受け止めている。
コロナ禍で企業のDXへの取り組みが加速しているが、法人営業を主軸とする企業が、12年前からBtoB、BtoCともにECサイトを開設したのは先見の明があると言って良いだろう。EC事業を始めた背景について、ミドリ安全のE コマース事業の責任者である古谷武彦さんはこう語る。
古谷(ミドリ安全) ミドリ安全では長年、営業担当者が取引先企業様を直接訪問する販売方式でやってきました。一方で、時代の流れから「ネットで直接買いたい」というニーズも高まってくるだろうと予測し、2008年にECサイトを開設しました。法人様向けのBtoB-ECサイトは、取引先企業様ごとに配送や価格などの条件に対応する「お客様によって顔の違うサイト」です。一般消費者向けのBtoC-ECサイトは、多様な決済手法やログインの有無などさまざまなニーズに応えながら、普段の生活ではなかなか触れる機会のないミドリ安全の商品をいかに知っていただくかに重きを置いて運営しています。どちらのサイトでも共通して重視しているのは、商品の機能説明です。「このような条件下で、このように着用すると体に負担が少ない」といった商品に関する情報をきちんとご理解いただいてから買っていただけるよう務めています。
ミドリ安全では、メディカル用品や耐油・耐薬品、熱場作業用など、特殊な環境下で用いられる製品も取り扱う。「必要としている人にきちんと届ける」は、EC業界においてはよく言われることだが、安全用品を扱うミドリ安全のような企業においては、その重要性はさらに増す。商品説明を充実させる以外にも、ユーザーが求める商品にいかに速く正確にたどり着けるか、ECサイトのユーザビリティの探究は止まない。中でも重視するのが、サイト内での検索の利便性、とくに「絞り込み(ドリルダウン)機能の充実」だ。同社で扱う商品は、たとえばヘルメットといった同一カテゴリの商材でも、利用するシチュエーションによって求められるスペックは異なる上、商品検討時にはサイズなどの細かい絞り込みも必要とされる。こうした需要に対し、自社で商品データベースを整備するほか、2017年にはEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」を導入した。ミドリ安全 E コマース推進部で、システムを担当する山口恭司さんは、導入の背景と成果をこう振り返る。
山口(ミドリ安全) お客様の利便性向上とSEOの観点から、サイト内検索エンジンの導入を検討していました。「ZETA SEARCH」を選定した理由は、価格や機能面での比較を行った結果、投資対効果が優れていると判断したからです。他製品への横展開を含めた将来性も要因のひとつです。「ZETA SEARCH」のデータをもとに、レコメンドエンジン「ZETA RECOMMEND」やレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」の導入へもつなげることができるのが魅力的でした。さらに、提供元であるZETAの開発能力の高さも評価しています。「ZETA SEARCH」の導入により、サイト内検索の速度は上がり、絞り込みの精度も向上しました。ただし、私たちのデータに関する知識が不足していたことから、求めている買い物体験の提供には到達しておらず、ストレスがまだ残っている部分もあります。日々、学びながら模索しているところです。
ZETAでは多数の導入実績を活かし、さらに速く、使いやすくなるよう改善に努めているとのことだが、とくにBtoB-ECの世界においては、サイトのユーザビリティは、改善の余地が大きいポイントでもある。業務用のBtoB-ECサイトは「使わなければ仕事にならないもの」。ユーザーのニーズに応えることができなければ他サイトに浮気されてしまうBtoC-ECほどには、買い物体験が重視されてこなかったのだろう。取引額が大きくニーズも企業によってさまざまであることから、サイトを改善するよりも、営業担当者が取引先に出向くほうが得るものが大きかったという事情もある。
市川(ZETA) 「ZETA SEARCH」をご提案する際には、安全用品業界について勉強し、ミドリ安全様のニーズをお聞きしながらブラッシュアップしていきました。ZETAでは、BtoB-ECサイトの事例はまだそれほど多くなかったため、技術的にどのような解決ができるのかを考え抜きました。
山口(ミドリ安全) 当社ではBtoBのビジネスを長年やってきたことから、次々と要望が持ち上がり、ZETAさんにはわがままばかり言ってしまいますが、二人三脚で引き続きお力を貸していただければと思っています。
求める人に速く、正確な提案を ECサイトが担う社会的役割
コロナ禍で加速した、幅広い世代のネットでの購入。さらに、ミドリ安全の扱う製品が世に求められるものであったことから、2020年前半に「ミドリ安全.com」「ミドリ安全.com PLUS」に寄せられたニーズは、同社の想像を遥かに超えるものであった。
古谷(ミドリ安全) もとより、災害などが発生すると検索経由でECサイトへのアクセスが増え、物が動く傾向はありましたが、コロナ禍は従来の比ではありませんでした。2月から4月は、この月はマスク、この月は手袋といった具合に、商品が変わりながらも飛ぶようにものが売れていきました。5月から7月にかけては、ご要望をいただいているにもかかわらず、仕入れが追いつかない、商品が足りないので価格が上がってしまうといった状況でご迷惑をおかけしてしまいました。8月から現場が少し落ち着き始め、ようやくお客様のご要望どおりに商品をお届けできるようになってきています。当社が取り扱う製品へのニーズはもちろん、「ネットを介して直接買いたい」という流れが来ていることも痛感しました。商材の確保はもちろんのこと、ECサイトについても、求めてくださるお客様にきちんとものがお届けできるようにしていかなくてはという思いが強まりました。
山口(ミドリ安全) 「ZETA SEARCH」の導入により、とくにBtoCのサイトにおいて、検索キーワードが多様になっている、つまり商品の探しかたもさまざまであることがわかってきています。最終的には、お客様に探していただくのではなく、こちらからあらかじめご提案できるような仕組みにしていきたいですね。
ECサイトへのアクセスや商品へのニーズ増加は、災害やパンデミックだけとは限らない。たとえば、マスメディアでの露出も要因のひとつだ。2020年1月23日放送のテレビ番組「カンブリア宮殿」に社長が出演した際には、通常の7〜8倍のアクセスがあったと言う。新たなユーザーが増えるのは喜ばしいことだが、普段から利用している顧客に不便な思いをさせてしまうことは避けなくてはならない。ECサイトは売上を上げるだけでなく、求めている人に商品を届けるという、社会的な役割も担っているからだ。ミドリ安全のような商品を扱っているサイトであれば、なおさらである。
市川(ZETA) アクセス対策以外にも、マスメディアでの露出を活かして売上アップをはかるなど、ビジネス面での成功につながるようなご提案も行いたいと考えています。
出張(ZETA) ミドリ安全様からは、2019年の大型台風の際に「サイト内検索結果の上位に飛散シートが並ぶようにしたい」というご要望をいただきました。個別のご要望に都度対応することはあまり前例がないのですが、ミドリ安全様のECサイトが果たす社会的役割を考慮すると、検索エンジン屋としてお応えしないわけにいかないとすぐに対応させていただきました。
DXの視点で、EC部門以外の社員にも使い勝手の良いECサイトへ
ZETA SEARCH導入時に重視した、他ツールへの横展開。ミドリ安全が導入を検討しているのが、レコメンドエンジン「ZETA RECOMMEND」とレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」だ。検索エンジンとレコメンドエンジンは、商品データベースをもとに提案を行う点では同様の仕組みであり、同じツールベンダーの製品を導入することも多い。一方のレビューは、第三者の客観的な評価を掲載するのが時代の流れではあるものの、BtoBを主事業とする企業ではどのような活用方法があるのだろうか。
そのヒントは、ミドリ安全の社長がテレビ番組出演時に口にした「営業マンこそ最強のマーケティング部員」という言葉にありそうだ。全国に181ヵ所の営業所を展開するミドリ安全では、営業マンがヒアリングしてきた「取引先の悩み」を商品開発に取り入れヒット商品を編み出してきた実績があり、それが商品開発力の強さとなっている。
古谷(ミドリ安全) 法人のお客様からのお声を取り入れる方法については、BtoC-ECサイトのレビューとは違う部分もあるのではと考えています。当社が長年やってきた、お客様のお声を商品の改善につなげる活動は、常にやり続けたいことです。そのような目的でレビューを活用できたら良いですね。
出張(ZETA) BtoB-ECサイトにおいては、他のユーザーの声によって商品への印象や購買行動が変わることはあまり考えられませんが、レビューが掲載されることで商品の透明性が上がることはあると思います。また、BtoBであれば、商品ごとに異なる軸で評価されるべきでしょう。「ZETA VOICE」は多軸での評価を特徴のひとつとしていますが、商品ごとに評価軸を変えるのをどう実現するか、模索しているところです。
しかしながら、ユーザーのレビューを集めることで、商品管理部だけでは入力しきれない商品に関する情報を取得できるのは確かです。そのデータを「ZETA SEARCH」や「ZETA RECOMMEND」と組み合わせて活用することで、将来的には、ユーザーが今以上に感覚的に利用できるECサイトが出来上がるのではないかと考えています。今後もミドリ安全様にはどんどんわがままを言っていただき、ZETAではそれをかなえて参ります。その結果、ミドリ安全のお客様の買い物体験をより良くしていくことに貢献したいですね。
コロナ禍により、BtoB分野においても、ウェブでできるだけビジネスを完結させようという流れが起きている。これまで重視されなかった、法人利用におけるユーザビリティや買い物体験の向上がさらに求められていくだろう。そして、より良い体験を求めるのは、買い物をするユーザーだけに留まらない。ECサイトを活用してビジネスを行う従業員も同様である。そこまでできてこそのDXではないだろうか。
市川(ZETA) ECは、家に居ながら買い物ができるというイメージが強いですが、BtoBのビジネスの現場でもおおいに活用できますし、その面での使い勝手も追求していきたいと考えています。たとえば、ミドリ安全の営業担当の方がお客様先でECサイトをお見せし、その場で発注したり、ECサイト活用で営業成績がアップした営業担当者の方の評価を上げたりといった具合です。ECサイトを、EC事業部の方だけでなく、ミドリ安全の皆さまがDXの視点でさらに使い込んでいけるようなサイトにできるよう、ご提案していければと思います。