供給過多なアパレル業界 負のスパイラルからいかに抜け出すか
コンパックコンピュータ(現 日本ヒューレット・パッカード)、スタートアップ数社を経て2012年5月、ベビー服などの小売事業を行う会社を設立した瀬川氏。しかし3度の倒産危機に直面した。そのすべてが「在庫問題」によるものだったという。危機を乗り越える過程で、学生時代に研究していたAIと統計学を駆使し、在庫問題の本質を解明。その研究成果を仕組み化したものが、2017年11月に販売を開始したクラウドサービス「FULL KAITEN」だ。2018年には小売事業を売却してフルカイテン株式会社に社名変更し、今年2月にバージョン2.0をリリース。ジュン、アシックス、ドーム(UNDER ARMOUR)などのアパレル企業をはじめ、さまざまな業界の在庫問題解決を支援している。
はじめに瀬川氏は、「みなさんは売上増加のために、どういうことをされていますか?」と質問を投げかけた。
多くのアパレル企業では、欠品による機会損失(売り逃がし)を避けようとするあまり、在庫を多めに積んでしまいがち。これらが売れ残り、長年にわたって積み重なることで在庫問題を形作ってきた。
「たくさん積むと売れ残る。でも、売れ残りを懸念して在庫を減らしていくと、不思議なことに売上まで減ってしまう。売上増加と在庫適正化の両立は簡単ではないのです」と瀬川氏は説明する。これまで企業ごとに売上目標を追いかける一方で、在庫を持ちすぎないよう、経験や勘、独自のルールやツールで発注や在庫管理の方式を工夫してきたが、「限界を感じている」との声が多い。
瀬川氏はアパレル業界の現状を提示しながら、在庫問題の背景を説明した。1990年と2010年の国内アパレル業界の市場規模・供給量を比較すると、市場規模は15兆円から10兆円と3分の2に縮小する一方、国内生産と輸入を合算した供給量は20億点から40億点と2倍に増加。「売れ残りが常態化している」と語った。
続けて瀬川氏は「供給過多が生む負のスパイラル」について説明。
余剰在庫を抱える企業は、在庫をこれ以上増やすまいとセール開催を前倒ししたり回数を増やしたりする。セール頼りは粗利を削り、買い手が意識する商品の値ごろ感も下げてしまう(「待てば安く買える」など)。そこで、減った利益を補うため、原価をさらに下げようと大量生産・大量仕入れを行う。すると在庫が積み上がり、当然に余剰在庫も膨らむ——これが、アパレル業界全体を蝕んでいる負のスパイラルだ。瀬川氏は、「このスパイラルから抜け出さないと、売上・利益の増加と在庫適正化の両立は難しいでしょう」と語る。