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フルカイテンがAIで確立、在庫適正化と売上・利益増の秘訣 目指すは「不要なものを作る必要がない社会」

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2019/11/21 07:00

 「半分が売れ残る」と言われるアパレル業界で、在庫が膨らみ利益を圧迫している現状に多くの企業が悩んでいる。売上を損なうことなく在庫を適正化するにはどうすればよいのか——2019年10月3日に「ECzine Day 2019 Autumn」にて行われたフルカイテン株式会社による講演「【大手ブランドも頼る新機軸AI】アパレルの在庫適正化と経常増益を両立するSaaS」で、同社代表取締役の瀬川直寛氏が、アパレル企業が余剰在庫から売上と利益を作る方法や、AI搭載のクラウドサービスで在庫適正化に成功した事例を語った。

供給過多なアパレル業界 負のスパイラルからいかに抜け出すか

講演するフルカイテン代表取締役の瀬川直寛氏

 コンパックコンピュータ(現 日本ヒューレット・パッカード)、スタートアップ数社を経て2012年5月、ベビー服などの小売事業を行う会社を設立した瀬川氏。しかし3度の倒産危機に直面した。そのすべてが「在庫問題」によるものだったという。危機を乗り越える過程で、学生時代に研究していたAIと統計学を駆使し、在庫問題の本質を解明。その研究成果を仕組み化したものが、2017年11月に販売を開始したクラウドサービス「FULL KAITEN」だ。2018年には小売事業を売却してフルカイテン株式会社に社名変更し、今年2月にバージョン2.0をリリース。ジュン、アシックス、ドーム(UNDER ARMOUR)などのアパレル企業をはじめ、さまざまな業界の在庫問題解決を支援している。

 はじめに瀬川氏は、「みなさんは売上増加のために、どういうことをされていますか?」と質問を投げかけた。

 多くのアパレル企業では、欠品による機会損失(売り逃がし)を避けようとするあまり、在庫を多めに積んでしまいがち。これらが売れ残り、長年にわたって積み重なることで在庫問題を形作ってきた。

 「たくさん積むと売れ残る。でも、売れ残りを懸念して在庫を減らしていくと、不思議なことに売上まで減ってしまう。売上増加と在庫適正化の両立は簡単ではないのです」と瀬川氏は説明する。これまで企業ごとに売上目標を追いかける一方で、在庫を持ちすぎないよう、経験や勘、独自のルールやツールで発注や在庫管理の方式を工夫してきたが、「限界を感じている」との声が多い。

 瀬川氏はアパレル業界の現状を提示しながら、在庫問題の背景を説明した。1990年と2010年の国内アパレル業界の市場規模・供給量を比較すると、市場規模は15兆円から10兆円と3分の2に縮小する一方、国内生産と輸入を合算した供給量は20億点から40億点と2倍に増加。「売れ残りが常態化している」と語った。

 続けて瀬川氏は「供給過多が生む負のスパイラル」について説明。

アパレル業界が陥っている負のスパイラル。ここから脱却するカギがFULL KAITENにある

 余剰在庫を抱える企業は、在庫をこれ以上増やすまいとセール開催を前倒ししたり回数を増やしたりする。セール頼りは粗利を削り、買い手が意識する商品の値ごろ感も下げてしまう(「待てば安く買える」など)。そこで、減った利益を補うため、原価をさらに下げようと大量生産・大量仕入れを行う。すると在庫が積み上がり、当然に余剰在庫も膨らむ——これが、アパレル業界全体を蝕んでいる負のスパイラルだ。瀬川氏は、「このスパイラルから抜け出さないと、売上・利益の増加と在庫適正化の両立は難しいでしょう」と語る。

AIは“魔法の杖”ではない 間違えることを前提として予測するFULL KAITEN

 余剰在庫(=売れ残り)が膨らまないよう、販売数をなるべく正確に予測して消化率を高められるのでは、とAIへの期待が高まっている。しかし瀬川氏は、AI導入に踏み切った企業では「AIに対する当初の期待値と現場が実感する成果のギャップが大きい」と語った。

「『1憶円投資したにもかかわらず、従来のやりかたで社員が作ってきた予測精度と大差がなかった』『精度を上げるためにもっとデータがほしいと言われ続けてもう1年半が経った』『PoC(Proof of Concept:概念実証)をしたけど、効果が見込めなかった』といった声が上がっていて、AIに懐疑的な企業も増えています」(瀬川氏)

「AIは“魔法の杖”ではありません。外的要因の影響をまったく受けなければ高精度の販売予測ができますが、現実はそんなことはありません。たとえば競合他社が類似商品を値下げしたり、それを欠品させてしまったり、近くに競合店が出店したりすると、その影響を受けて売れ行きは変化します。こういった外的要因をも予測できるぐらいのデータがあれば良いですが、現実的にそうした大量のデータを手に入れるのは難しいので、予測精度にブレが出てしまう。それが現状です」(瀬川氏)

 ガートナーが発表する「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2019年」によると、AIの現在地は「過度な期待」のピークとなっている。これから幻滅期と啓蒙活動期を経て、企業実務の世界にAIが本格普及するにはまだまだ長い年月が必要と言える。

 しかしフルカイテンは「AIには限界がある」と考えながらも、AIを用いたクラウドサービスを提供している。矛盾しているようにも見えるが、それは「『AIが予測を間違えることもある』ことを前提としてFULL KAITENを開発したからだ」と、瀬川氏は説明する。

FULL KAITENはAIの限界を踏まえたプロダクト設計になっている

 FULL KAITENは、SKUごとにどれくらい売れるかを予測するが、予測が外れることも見越して毎日予測し直し、都度答え合わせも実行する。AIの予測精度が抜群に優れていれば、理屈の上では余剰在庫は発生しないが、前述の通り現状それは不可能だ。その前提に立ったうえで、FULL KAITENでは全在庫をSKUごとに以下の3つに分類する。

  1. 『不良在庫』:売り切ることはほぼ不可能と予測されるSKU
  2. 『過剰在庫』:売れる商品ではあるが、売れ残ると予測されるSKU
  3. 『フル回転』:売り切れると予測されるSKU

 商品のライフサイクルは、「入荷」して「売れ始め」、「すごく売れる」ピークを迎えた後に「売れなくなってくる」ときを経て、「まったく売れなくなる」という流れが定番だ。FULL KAITENは、この流れを踏まえてSKUごとに分析を行う。

「本来は、『フル回転』『過剰』『不良』などSKUごとのステータスを考慮して在庫を消化していく必要があるのに、アパレル企業はよく売れる商品の販促ばかりを行い、そういった商品を欠品させないようにします。だからほかの商品が売れ残ってしまうのです」(瀬川氏)

 売れる商品を欠品させないようにする、売れる商品を増やすために商品数や仕入れを増やすといった従来の考え方では、余剰在庫もどんどん増えてしまう。これに対し、FULL KAITENのコンセプトは「在庫リスクが出てきた商品からも売上を作り、無駄な値引きをなくす」というものだ。

「今ある在庫から利益を作る」考えかたで、不要なものを仕入れない

 瀬川氏は、「FULL KAITENが『過剰在庫』に分類したSKUの合計金額が多ければ多いほど、宝の山がある」という。『過剰在庫』をさらに細分化して見ると、もともとは『フル回転』ステータスだったのに『過剰在庫』に転落したSKUを抽出できる。こうしたSKUには、次々に投入される新商品が前面で大々的に露出される半面、販促が手薄になってしまったために売れなくなった商品もあり、売り方を工夫することで販売を改善できる可能性が高いという。

「この手の過剰在庫は、掘り起こしてきちんと販促をかけると値引きをしなくても売れていきます。つまり、利益を増やすことができます。たとえば広告を出す、ポイント優遇をする、または商品の特集を組むといったことをすると効果的です」(瀬川氏)

 『過剰在庫』のなかには、もとは『不良在庫』だった商品や、ずっと『過剰在庫』のままの商品も存在する。瀬川氏は、「これらは、タイムセールなどを行うことで動かしていくことができる」という。さらに「不良在庫に分類されている商品についても、大きめのセールに出したり福袋の商品にしたりするといった施策で、在庫をキャッシュに変えて倉庫・保管コストを圧縮することが可能だ」と述べた。今ある在庫をSKUごとに見極め、有効活用することで無駄をなくし、売上・利益の増加につなげることができる。それをAIで実現するのが、FULL KAITENというわけだ。

 FULL KAITENでは、SKUごとに売り切るまでに何日かかるかの目安も算出することができる。販促をかけた結果どれくらい売れたのか、成果も参照することができるため、販促施策(在庫削減施策)の企画から実行、結果の振り返りも一気通貫で行うことが可能だ。実際に、FULL KAITENの導入からわずか9ヵ月間で全在庫を約40%削減することに成功した企業や、不良在庫を60%カットすることができた企業、在庫数は変えずに売上を2倍にできた企業もあるなど、大きな成果が生まれている。

 「商品ごとに在庫リスクを可視化し、それに応じて販促施策を打っていくことで売上増加と在庫適正化は両立できるのです」と語る瀬川氏は、最後にフルカイテンのミッションと今後の夢を語り、講演を締めくくった。

企業はFULL KAITENを使うと、意図せずして廃棄・資源問題に貢献することになる

「フルカイテン株式会社は、ミッションとして『不要なものを作る必要がない社会』の実現を目指しています。現代社会は、ものを作るときも廃棄するときも資源を使っています。FULL KAITENによる在庫問題の解決を通して、廃棄や資源の問題に何かしらの貢献ができればと考えています」(瀬川氏)

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